インドが立ち後れている根本的な原因は、この国の経済モデルにある─後進的な「半ソ連型、半中南米型」の経済モデルだ。そして、このモデルを取り入れたことが、経済において政府が果たすべき複数の役割のためのリソースが欠如した大きな、そして腐敗した政府の誕生につながっている。
旧ソ連を模範としたことで、インド経済はビジネスと市民の職業生活に政府が過剰に介入する状態となっている。電気・ガス・水道などの公益事業、通信、輸送、金融の各部門で、政府は所有者、投資家、起業家、経営者として影響力を行使し、非効率的な企業を破綻させないようにしている。
さらに、政府は商品市場にも介入している。監督機関や“門番”(免許による統治を行う「ライセンスラジ」)として、誰がどの程度の期間、どのような事業を営むことができるか決定し、労働市場では賃金や雇用基準を定めている。
一方、経済モデルにおけるインドと中南米、とりわけ同じBRICS構成国のブラジルとの共通点は、経済システムのルールを定めるための公正で透明な手法が欠けていることだ。そのことが、法律のあいまいな解釈につながっているほか、反政府デモの発生という形で頻発するビジネスや国民生活の混乱にもつながっている。
また、インドとブラジルは同様に、福祉政策を拡充してきた。モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントの新興市場担当の責任者、ルチル・シャルマによると、ブラジルは新興国で最大規模の福祉プログラム、貧困層向けの給付制度である「ボルサ・ファミリア」を実施した。そして、インドでは2005年、それを上回る規模の「マハトマ・ガンジー国家農村雇用保障法(NREGA)」が成立した。シャルマによれば、NREGAは農村部の貧困層を公共部門で年間100日まで雇用することを保障するプログラムで、毎年およそ100億ドル(約1兆円)の公的資金が投入されている。