シンギュラリティ大学のロブ・ネイルCEOも、マスクを高く買う一人だ。「卓越したエンジニアであり、未来に対する揺るぎない独自の視点を持った、極めてイノベーティブな起業家だ」(ネイル)。赤字企業同士の合併を冷ややかに見る投資家も多いが、ソーラーシティの買収を断行した点が、周りの批判などをものともせず自分の信念を貫いたスティーブ・ジョブズを彷彿させると、ネイルは語る。
ネイルが分析するマスクの最大のスキルセットは、「総合的思想家」であること。ある領域で掘り下げた斬新な見方を他領域に持ち込み、誰も思いつかないような考えに転化させる─。「本物のイノベーションは、そこから生まれる」とネイルは言う。「自説を曲げない意志力、高度な専門性に裏づけられたビジョン、分野の枠を超えた思考法。これがマスクだ」。
壮大な目標をいくつも掲げすぎると、計画倒れに終わるリスクもあるが、最も厄介なのが「微妙な課題」だ。たとえば、カーシェアリングサービスが「自動車の所有権」という概念を脅かすリスク。車社会の米国では、マイカーは「文化的アイコン」なだけに、人に貸したくないなどと消費者が思いかねない。自動運転への信頼感の醸成も急務だ。社会的など、多角的にリスクを考える際の展望図「『リスク・ランドスケープ』を認識することが、マスクの最大の課題の一つだ」とメイナード教授は言う。
「『真に破壊的』であるためのハードルは多い」(同教授)。だが、マスクなら、それに打ち勝つチャンスは十分ある。
イーロン・マスク◎1971年南アフリカ共和国生まれ。99年、インターネット決済のペイパルの前身企業を創業。2002年にスペースXを起業、04年創業期のテスラモーターズに出資して、08年から同社CEOも兼任。
テスラモーターズ◎2003年、シリコンバレーで創業した米電気自動車(EV)メーカー。リチウムイオン電池搭載のスポーツカー「ロードスター」や価格を下げたセダン「モデル3」などを販売(モデル3は来年後半販売開始予定)。ソーラーシティ買収で再生エネルギー発電とEV事業の合体にも乗り出す。
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