肥満、アレルギー、うつ病を起こす「体内炎症」とその正体[本は自己投資! 第4回]

写真=岩沢蘭


肥満についてみてみよう。アメリカでは1950年代から体重の増加が顕著になり、1960年代に行われた全国調査では成人の13%が肥満(BM130以上)だったのが、1999年には30%にまで増加した。しかもこれはアメリカだけでなく世界的な傾向だというのである。

私自身、社会人になってから30キロ近く体重を増加させた由緒正しいデブだが、医師の指導のもと、これまでなんどもカロリー制限や運動に取り組んできたものの、一向に体重が減ることはなかった(隠れて間食でもしてるんだろうと疑う向きもあろうが誓って無実だ)。

だが本書は、マイクロバイオータの乱れが肥満をもたらしている可能性をいくつもの例証とともに提示してみせる。たとえば太ったマウスと通常のマウスの腸内細菌を比較すると、その組成比は明らかに違う。そして太ったマウスの腸内細菌を通常のマウスに植えつけると、痩せていたマウスが太ってしまうという。

どうやら肥満治療の鍵を握るのがマイクロバイオータであることは確かなようだ。これまで何度もダイエットに挫折し、自己嫌悪に陥った経験を持つ者にとっては福音である。少なくとも痩せられないのはあなたの意志力とは何ら関係がないのだから。

マイクロバイオータの乱れはなぜ引き起こされるか。本書では主に、抗生物質の乱用や食物繊維の摂取不足、出産のかたちや赤ん坊の育て方が変わってきたことなどを理由にあげている。本書で次々と明らかにされる事実にあなたはショックを受けるだろうが、少なくともこの現実をどう変えていくかが私たちの社会の未来を左右することだけは理解していただけるはずだ。

もちろん本書には乱れてしまった微生物の生態系をどうすれば修復できるかという話題も出てくる。その詳細はぜひ本を手にとって夢中になって読んで欲しい。そこには初めて知るような知見が記されているはずだ。

1900年時点の先進国における死因の上位3位は、肺炎、結核、感染性の下痢だった。この3つが人口の3分の1の命を奪い、平均寿命は50歳に届かなかった。

いまはどうだろう。平均寿命は80歳に届かんという勢いだが、死因の上位3位を占めるのは心臓病、がん、脳卒中である。これらの病気は高齢化社会につきものだと我々は考えがちだが、いま医学研究者のあいだでは、これらの病気は長期にわたって体の中で炎症が続いたことによって引き起こされるのではないかという見方が浮上しているという。

炎症は、体内の微生物共同体のバランス、特に腸内細菌のバランスが崩れることで起きる。もし私たちが微生物の声に耳を傾けられるようになれば、もしかしたら膨れ上がる社会保障費だって減少に転じさせることが可能かもしれないのである。

本書によって私たちが未来を築くための道筋は示された。誰もが微生物に生かされている。

人類みな召使い。さあ手をとりあって、ご主人様に奉仕する人生を歩もうではありませんか!

本は自己投資! 連載第1~3回はこちら>>

文=首藤淳哉

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