過去に国連安保理による制裁が決議されているのに、なぜ9月9日の5回目の核実験に至るまで、北朝鮮は計画通りに核開発とミサイル実験を進められたのだろうか。制裁がどのように行われ、どんな人や組織が摘発されたのか、その実態については、何の検証も報じられていない。
5回目の核実験を受け、各国の首脳は「国際社会への深刻な脅威」と表明し、「国連の安全保障理事会が制裁強化へ」と報じられている。しかし、「制裁だけで核・弾道ミサイル計画を断念させるフェーズはとっくに過ぎています。今になって脅威を認識してももう遅い」と話すのは、今年4月まで5年間、国連安保理1718委員会専門家パネルのメンバーだった古川勝久氏である。
1718委員会とは、06年の北朝鮮の最初の核実験に対して、安保理が採択した制裁決議「1718号」の履行を監視・調査する組織である。安全保障の専門家である古川氏の任務は、「制裁違反事件の捜査と、北朝鮮の非合法取引ネットワークの解明」だった。しかし、彼が現場で体験し続けたのは、各国首脳の宣言や報道とは大きくかけ離れた実態である。
以下、古川氏の話を聞こう。
テレビの報道を見て違和感を抱くのは、「中国が裏で北朝鮮を支援している」という見方です。中国ばかりに焦点が集まりがちですが、中国は多くの問題の一部にすぎません。他にも悪質な国はたくさんあります。
まず、北朝鮮から通常兵器を買っているアフリカ諸国。また、弾道ミサイルの原材料やパーツを購入しているシリアやエジプトなどの国。次に、北朝鮮のフロント企業やエージェントが活動する東南アジア諸国。そして意外かもしれませんが、先進諸国です。
まず最初に、なぜ制裁に国際協力が必要なのか、その理由をお話ししましょう。
2002年、アメリカの通報を受けたスペイン海軍の特殊部隊が、イエメン沖で北朝鮮国籍の貨物船「ソサン号」の臨検を行いました。すると、甲板下にコンテナの積み荷が隠されていて、その中からスカッドミサイルの大型パーツが出てきたのです。02年当時はこうした摘発があったのですが、今ではこのように明白なミサイル関連物質の摘発はまれです。この写真を見て下さい。これが何かわかりますか?
Photo & copy right: Katsuhisa Furukawa
スカッドミサイルの発射の際に使われる電気リレー(電気信号を受ける回路)です。この古い電気リレーを見て、「禁輸対象のミサイル関連部品だ」とすぐにわかる国はあまりありません。我々、国連専門家パネルは、スカッドミサイルとの関連を証明するため、実際に同型ミサイルを解体し、同一部品を見つけなければなりませんでした。幸いにも、旧ソ連型の同型ミサイルは、大富豪がサンフランシスコに建てた軍事車両博物館で展示されていました。
こちらの写真は、日本の港で押収されたものですが、鉄くずに見えますよね。これらは、ウラン型核爆弾の製造に必要な、遠心分離器の原材料として禁輸対象とされている高強度アルミニウム合金です。大量の金属製品を積載した貨物の中に隠されていました。
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