クラウド時代の寵児 「BOX」CEOに聞く、業界の未来像

クラウドストレージ企業Boxの共同創業者兼CEOのアーロン・レヴィ(photograph by Jan Buus)


クラウド関連ビジネスの潜在的な市場規模は数兆ドルに上るとされる。その巨大なパイをめぐって、すでにアマゾンやマイクロソフト、グーグルなどによる戦いが激化している。

今後、特にビジネス向けクラウド市場での覇権争いはどのように展開していくのか。やはり、OS(基本システム)やブラウザ市場に見られるように大手2〜3社による寡占へと収斂(しゅうれん)していくのだろうか。

その点についてレヴィに尋ねると、こんな答えが返ってきた。「未来の情報システムは、従来のように1社のテクノロジーだけを使った画一的なものではなく、各分野で最善のテクノロジーを統合したものになる」

それは、一言でいえば「ヘテロジニアス(異種混淆)」な世界。まるで多民族社会のように、各種サービスが競合しながらも共存するという世界観だ。

補足すると、オンプレミスの時代は必ずしもそうではなかった。多くの大企業はオラクルやSAPなど、いわゆるERP(統合型業務パッケージ)ベンダーが提供する包括的ソリューションを競って導入した。

だが、それはもう過去の話だという。

「今の顧客は、特定のベンダーがすべてを解決してくれるようなソリューションを求めてはいない。これからは、SalesForceやServiceNow、Zendesk、Office 365などお気に入りのサービスを連携させて利用するようになる。オラクルやSAPなど1〜2社にすべてのテクノロジーを依存する時代は終わったんだ」

ベンダー1社にすべてのシステムを任せると何が不都合なのか。1社のテクノロジーで統一したほうが、使い勝手がよさそうにも思える。

この点について、レヴィは「イノベーションが起きづらいことが問題だ」と語る。

「最高のイノベーションを得るには、(会計や販売管理、人材、物流など)それぞれのシステム分野ごとに競争させるしかない。もし1社からすべての技術を購入すると、システム間の連携はうまくいっても、イノベーションの面では遅れてしまう。

オンプレミスの時代は(外部システムとの連携を可能にする)『オープンAPI』という仕組みがなかったから、1〜2社からすべてのテクノロジーを買うしかなかった。でも今はオープンAPIを使って、異なるサービスの間でデータをやりとりできる。だから顧客として最大限のイノベーションを享受したければ、『ベスト・オブ・ブリード』(各分野で最高のものを集めること)の戦略でいくべきなんだ」

実際、企業もそのような戦略を望んでいるようだ。Boxの顧客であるGEやP&G、コカ・コーラなどの大手企業は情報システムに関して「ベスト・オブ・ブリード」の手法を採っている。

見逃せないのは、こうしたシステムの連携が業界構造にも変化を与えている点だろう。マイクロソフトやIBM、アップルなど、かつてのライバル同士が近年、次々に提携・協業し始めているのだ。これは5年ほど前まで考えられなかったことである。

レヴィはこんな未来を見据える。

「未来のクラウドは、各サービスが互いにつながったオープンな世界になる。顧客はいろいろなサービスを組み合わせて利用したいからね。だから自社のテクノロジーを(他社に対して)閉ざしたままにしている会社はいずれ滅びゆくだろうね」

増谷 康 = 文

この記事は 「Forbes JAPAN No.26 2016年9月号(2016/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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