2016年の研究成果もまちまちだ。7月末には、大きな期待がかけられていたアルツハイマー病治療薬の臨床試験が失敗。一方で米食品医薬品局(FDA)は、別の2つの薬をファスト・トラック(優先承認審査)の対象に指定。認知機能の低下を遅らせることが目的の1つである人気の“脳トレ”プログラムは、誇大広告だとして米連邦取引委員会(FTC)に賠償金の支払いを命じられた。
失敗した臨床試験は、シンガポールの製薬会社タウリックス・ファーマシューティカルズ(TauRX Pharmaceuticals)が開発した製品。アルツハイマー病の患者の脳に損傷を与えるという説がある「タウ」と呼ばれるタンパク質を攻撃対象としている薬だが、少なくとも今回の臨床試験では、アルツハイマー病の初期から中期の患者に効果が認められなかった。
研究はどれも期待はずれ
FDAは、アルツハイマー病の主な原因とされてきたもう1つのタンパク質、βアミロイドを攻撃対象とする2つの新薬をファスト・トラックの対象に指定した。これは薬が認可されることを意味するものではない。単にFDAがその薬について、医療ニーズが満たされていない重篤な疾患に対する治療に効果が期待できると考えていることを意味している。今回指定されたのは、バイオジェン(Biogen)が開発した新薬と、アストラゼネカ(AstraZeneca)とイーライ・リリー(Eli Lilly)が共同開発した新薬の2つだ。
現在、製薬各社は数十ものアルツハイマー治療薬の臨床試験を実施中だが、これまでのところの結果はいずれも期待外れだ。2002年から2012年までの10年間で、244の薬について400以上の臨床試験が実施されたが、認可を受けたものは1つだけ。2012年以降、有効な薬は開発されていない。
認知機能の低下を遅らせるとうたわれたアプリやゲームにも、効果は認められていない。FTCは先ごろ、複数の“脳トレ”製品について、具体的な効果はないと判断。1月には脳トレゲームの開発大手ルモシティが、200万ドル(約2億540万円)の賠償金の支払いに合意した。
興味深いのは、治療薬や治療法に関する研究が成果をあげていない一方で、先進国の多くでは認知症の発症率が低下していることだ。高齢化に伴い、認知機能の低下に関連づけられる多くの疾患の患者数(絶対数)は増加する。だがアルツハイマー病や認知症を患う高齢者の割合は、以前よりも増加ペースが緩やかになっているようだ。とはいえ、その具体的な理由は分かっていない。