ワイヤレスヘッドフォンは一般的にブルートゥース規格で作動し、W1チップもブルートゥース規格を用いている。アップルはそのテクノロジーの詳細を明かしてはいないが、他のワイヤレスチップの3分の1の電力消費量で動作し、最大で5時間の連続駆動を実現した。
アナリストのパトリック・ムーアヘッドは「アップルは従来のブルートゥースにつきものの干渉や雑音の多くを取り除いたと考えられる」と述べた。標準的なブルートゥース規格は接続や端末のペアリングの面での不具合に悩まされてきた。「ブルートゥースは一度にいろんなことをやろうとしすぎる問題がある」とムーアヘッドは述べている。
今回のイベントでアップルはビーツやSolo3の新ヘッドフォンについてもふれ、それらの製品にもW1チップが搭載され、リスニング時間は40時間に及ぶとした。
アップルは今回の新たなワイヤレステクノロジーの開発を少なくとも2013年から進めていたようだ。それは同社がブルートゥース関連の小規模なスタートアップ企業、Passif Semiconductorを買収した頃にさかのぼる。関係者の一人はフォーブスの取材に対し、アップルは当初2015年には新ヘッドフォンのリリースを目指していたが、パフォーマンスや安定性の問題があり、発表には至らなかったという。
アップルは過去にワイヤレス通信のチップに外部企業の製品を用いていた時代もあった。通信モデムのチップにはクアルコム製品を、ブルートゥースやWi-Fiのチップにはブロードコム製品を採用していた。今ではアップルはブロードコムの製品の使用をやめ、今後の製品のブルートゥースチップにもブロードコムのチップは採用しない見込みだ。
アップルが自社製のチップにこだわる姿勢は2010年にリリースされた第一弾のiPadの頃にさかのぼる。当時アップルは自社開発のA4チップを製品に採用し、それ以降は他社製のチップを製品から追放する動きを見せてきた。
2013年にアップルはiPhone 5にスマートフォンとしては初めての64ビットプロセッサー、A7チップを搭載した。今回の動きからはアップルが今後、ワイヤレスチップの分野でも、半導体業界の新たな地平を切り拓いていこうとする姿勢が伺える。