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2016.09.18 16:00

偶然が予想外の価値を生む、「セレンディピティレガシー」の魅力


早速、翌日パトリシア市長と面談。「Rec-techのムーブメントについては、歴史から話さなくては」と、語り始めた彼女の話を要約すると、昔は林業で栄えたが衰退。ところが、この地には自然と人が集まるようになっていった。

まず、1960年代に、ロッククライマーたちが来るようになり、ウィンドサーファー、マウンテンバイカーが続き、レクリエーションカルチャーが徐々に築かれた。次に、20年ほど前から、Rec-techが登場し始めた。その後、バンクーバー・オリンピックでバンクーバーとウィスラー(ボブスレー会場)間に4車線の高速道路が完成し、会場2都市の地価が高騰。

スコーミッシュは地価が安いし、高速で都会まですぐだし、ネットも出てきたし、「移住して起業」という人が増加。7meshなど目立つ企業も移ってきて「クリティカルマス(閾値)」を超えた。今は、アウトドア関連を支援するデジタルや映像制作会社、再生可能エネルギーのラボなどもできて、企業の生態系ができた、とのこと。

本題に戻ると、この町にRec-tech集結のムーブメントを起こしたのは高速道路、つまり、オリンピックのレガシーがトリガーだったということです。これは面白い。風が吹けば桶屋が儲かる。

誰かが決めた何かが、別用途に使われて、新しいことを生んでいる。そうした例が他にもあります。

たとえば、サテライトオフィスで有名な徳島県神山町も、県がなぜだか引いていた高速ブロードバンドが、IT起業の移住環境を整えることにつながりました。また、高知県では、医者を信じないために風邪をひいたら病院に2つ行く習慣があり、「病院が過剰」「医療費の無駄遣い」と批判されていました。しかし、超高齢社会になると、その病床数の余裕が、逆に移住のメリットとなっているとのこと。

最近僕が体験した例でいくと、東京の水辺ツアー。広い隅田川を出発し、江戸情緒溢れる小さな水路を堪能していたかと思うと、首都高が出現、メトロポリスを船の上から見上げて日本橋でゴール。このダイナミックな変化は、ベネチアにもアムステルダムにもありません。この面白い景観を生んだのは前回のオリンピックのレガシー、首都高です(日本橋の上の首都高を外すことにはもちろん賛成ですが)。

誰かが決めてつくったレガシーを、偶然やみんなのアイデアで、したたかに、柔軟に、違う価値を付けていく。それをたまたま生まれたレガシー「セレンディピティーレガシー」と名付けてみました。

次のオリンピックなどで、仮になにか不満が残るものが決まったとしても、後付けで、より面白く意義あるものに、みんなで変えていけたら。それはもう誰かが決めたものでない。みんなに愛される後世に残るものになると思うのです。いまから何かみんなで考え始めちゃいますか。

倉成英俊◎電通Bチームリーダー。自称21世紀のブラブラ社員。気の合う人々と新しい何かを生むことをミッションに、公/私/大/小/官/民関係なく活動中。特に1人1人の特別な才能を世界の人類の未来のためにどう活用できるかに注力中。

文=倉成英俊

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