ビジネス

2016.09.12

ソニー平井社長が語る、「社員の熱量を吸い上げる」メカニズムの作り方

ソニー代表執行役社長兼CEO平井一夫(写真=円山正史)


ー「SAP」の現在の評価についてお聞かせください。2年経過した現在、社員のパッションを活かすことできたのでしょうか。今後何をしていくのでしょうか

昔からソニーには「これをやってみたい」「世界を変えていく」という思いを持っている人はいたと思います。だから、組織として、その社員の熱量をうまく吸い上げて事業化につなげるというメカニズムをつくること。うまく活躍できるようにすることが重要だと思っています。

これまでの評価ですが、SAPや、同じく社長直轄のTS事業準備室により「平井が新製品や新ビジネスにコミットする」というメッセージが社内に浸透してきました。

SAPで様々な製品が出てきて、メディアなどで話題にもなり、「何かやってるな」くらいに思われていたプロジェクトが、誰もが知るものになり、リスペクトもされはじめてきました。また、質も担保できる製品が出てきて、評価もされている。これまでの「フェーズ1」はすごくいいと思います。

これからは、収益化をどうするのか、という次のフェーズです。単発売りではなく、いまある製品群をいかにリカーリングビジネスに発展させ、ビジネスとして安定した収益をあげながら、“大きな花を開かせていくか”ということが課題です。パッションをもった人たちのアイデアを吸い上げる土壌はできたので、次のステージに向かうため、もう一度、様々なアイデアを出して、駒を先に進めていくことを考えてもらいたいですね。

今後、SAPやTS事業準備室をはじめとしたインキュベーションや新規ビジネスから、ソニーの将来を担う、ソニーを変える新しい製品や事業が生まれる可能性はあると思います。ただ、誤解されるといけないのですが、SAPやTS事業準備室をやっているから、ソニーの5年後が大丈夫だということではありません。

経営者として「5年後、10年後の会社の進むべき方向性や成長戦略」についてはトップマネジメントとして当然考えています。企業の成長戦略のなかにSAPは含まれていますが、当然すべてではありません。ただ会社がどの方向に進むにせよ、製品軸のイノベーションは絶対に必要になりますし、否定できないと思います。

だからこそ、イノベーションのための施策を打つことが、大きな成長戦略の一部となりえるのです。今後については、これまでの延長線上にない非連続な方向性と連続な方向性の2軸で、経営陣をはじめ、社内メンバーや外部の方々と議論しています。

ーイノベーション100委員会での気付きについてお教えください。また、イノベーションに取り組む経営者や社内起業家へのメッセージをお願いします。

イノベーションや新規事業は、社長が旗ふりをして「あとはよろしく」ではうまくいきません。人任せにせずに自分で日々、進捗を確認して、社長が本気で取り組んでいることをメッセージとして発信することが成功の秘訣ーという点が会合に出席した経営者の共通認識でした。そのほかにも、会社ごとに文化が違うので、実行する形やメッセージはそれぞれ違いますが、根底に流れている基本的なルールはあるとあらためて確信しました。

SAPをスタートしてわかったことは、たとえば、大企業だからこそのスピード感。アイデアを出すことや、プロトタイプ(試作品)をつくることは誰でもできる。ただ製品として、量産設計、量産化、マーケティング、ディストリビューション、営業、カスタマーサービスまでを考慮すると、ソニーは全てを持っている。

これまでスピードの面ではデメリットとして語られることもあった大企業の持つ資産は、小回りの利く使い方を取り入れ、全体の仕組みにフィードバックすればメリットに変わり、製品化までのスピードを速められる。

だからこそ、大企業の経営者がイノベーションについて真剣に考える必要性があると思っています。私は今後、イノベーションをうまくメカニズムとしてつくっていくことができる会社こそが伸びていく企業だと思っていますから。

Kazuo Hirai 平井一夫◎ソニー代表執行役 社長 兼 CEO。1984年CBS・ソニー(現・ソニー・ミュージックエンタテインメント)入社。97年ソニー・コンピュータエンタテインメント(現・ソニー・インタラクティブエンタテインメント)(SCEI) 執行役員、2006年SCEI代表取締役社長 兼 グループCOOを経て、12年4月より現職。

文=イノベーション100委員会事務局Japan Innovation Network

この記事は 「Forbes JAPAN No.26 2016年9月号(2016/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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