使うのをやめる半年近く前から、ネクタイをすることに違和感を持ち始めていた。身に着けていることはすでに、大人であることを証明するものではなくなっていた。ネクタイには、何かが起きていたのだ。
それは何だろうか? 答えは、消費態度の変化だ。このアイテムそのものではなく、消費者たちの自らに対する考え方が様変わりした。ネクタイをしていることはいまや、権威を示すものではない。「同調」「商業主義」そして「大量生産」の象徴だ。そして、これらは消費者が今求めているものとは、対極にある。
現在の消費者たちは、中国で大量生産されたものよりも職人の手による工芸品や、自分用にカスタマイズしたものを求める。地元で作られたものや、エシカルな(倫理的な、環境や社会に配慮した)製品を好む。帰属意識を持てるようなもの、自分のライフスタイルにおいて「本物だ」と思えるものを使いたいのだ。衣類についても同様に、自分自身や自分がいる場所について、自らがどう考えているかを反映させたいのだ。
こうした図式の下では、ネクタイが発するのは「誤ったメッセージ」だ。その他の衣類と異なり、ネクタイについて問題となるのは色や生地ではない。それそのものが、今この時点に「不似合い」なのだ。働く人が締めるネクタイは、本人が意図するのとは異なる印象を、周囲に与えている。
それならば今、ネクタイに代わるものは何か存在するのだろうか?──答えは、「イエス」だ。ネクタイに取って代わったのは靴下だ。男性たちが今、ほぼリスクを伴うことなく、個性を表現できるのは靴下だ。そして「靴下ビジネス」には今、熱い視線が注がれている。