ビジネス

2016.09.10

ポルシェ ジャパンが「日本企業として」描く未来

ポルシェ ジャパン 代表取締役社長 七五三木敏幸 (岩沢蘭 = 写真)


「道を歩く誰もが、ポルシェを見ると、『あ、ポルシェだ!』と気づいてくださいますが、企業体としてのポルシェ ジャパンについてはあまり良くご存知ではないでしょう。今までは、『911』という製品の知名度と魅力でクルマを売ればよかったかもしれませんが、今後はそういう時代ではなくなると考えています。EVのような電動パワートレインの時代は確実にやってきます。そのように時代が変化していくなかで『なぜ、このモデルを世に問うのか?』という質問にお答えできなければ、将来的にはお客様にポルシェを選んでいただけなくなると思っています。ポルシェジャパンという企業はどんな会社で、今後どうしたいのか?なぜ、このクルマを出すか?といった答えを出せてこそ、初めてお客様にクルマを選んでもらうことができると考えています」

もちろん、そのためにはポルシェジャパンとしての内側を見つめなおす必要もある。

「改革をせずに、生き残れるはずはありません。『911』はスポーツカーとして順風満帆に感じられるかもしれませんが、コアコンピタンスである水平対向エンジンが空冷から水冷へと変わった1997年にも、大きな変化に晒されました。過去を振り返れば、10年後も今日と同じような仕事をしているとは思えないはずです。変化を予測して、ビジネスの仕方を変えていき、リスクを恐れずに進んでいかなければなりません。技術革新、お客様の志向やインターネットなどの周辺環境の変化といった周辺までも含めて考えて、ビジネスを変えていかねければなりません。例えば、エンジンを高回転まで回すことだけが正しいスポーツ・ドライビングなのでしょうか? スポーツカーメーカーとしては、そうした将来への疑問にも答えていかないとなりません。ポルシェは速いことが重要という価値観は、その時代に「速い」ことが重要だったことから生まれたものです。常に時代にマッチしたクルマを出すことが、ポルシェ ジャパンとしての使命だと思っています」

インタビューの最後に、七五三木氏にマネージメントとは? と訊いてみると、こんな答えが返ってきた。

「一人ひとりの価値観があり、それにあったマネージメントが必要です。昔のようにクルマをたくさん売ったらボーナスをたくさんもらえたり、出世できるという型にはまったインセンティブだけでは、今の時代に人は動かせません。マネージメントする側が、この会社で働く意味を理解し、社内で共有していくことが重要です。働く意味を理解して、それが説明できない人は、トップとしての資格がないとすら思っています。そのためにはまず社員がポルシェに触れることを強化し、2020年までに社員が全員ポルシェに乗るというミッションを掲げています」

七五三木氏がポルシェ ジャパンの舵を握り始めてからようやく1年。日本企業としてのポルシェジャパンの今後に期待したい。

七五三木敏幸◎1958年生まれ、群馬県出身。一橋大学卒業後、群馬銀行入社。元来のクルマ好きが高じて1989年メルセデス・ベンツ日本に入社。ダイムラー・クライスラー日本CEO、フィアット・クライスラー・ジャパン本部長、日本自動車輸入組合理事などを務め、2014年1月より現職。

川端由美 = 文

この記事は 「Forbes JAPAN No.26 2016年9月号(2016/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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