タイ語に「マイペンライ」ーネバーマインドという意味の言葉があります
ふとした好奇心から、加瀬由美子が東南アジアの熱帯雨林リサーチのアシスタントに応募したのは、30代半ばのこと。短期間なら体験してみたい、そう思ったが算段は甘かった。
野営の大荷物を背負ってジャングルを歩き回る日々。ヒルに血を吸われ靴下は赤く染まり、野生の豚に追いかけられた。3カ月間のミッションを終え、帰国間際、タイのホテルで朝食をとっていた時だった。ウェイターを呼ぶ振り返り様、腰に激痛が走り、動くことができなくなった。
帰国もかなわず、入院生活を送る日々、現地の人に紹介されたのが、「ハーバルボール」というハーブを布で丸く包んだものを蒸して身体に押しあてていく、タイの伝統療法だった。
最初は半信半疑で試した治療だったが、腰が1週間でほぼ全快。加瀬はその効果に興味を持った。しかし、この「ハーバルボール」との出逢いは、加瀬をさらなる”人生のジャングル”へと誘うことになる。
加瀬が35歳で貯金300万円を頼りに単身タイに渡り、2002年に創業した「アジアハーブアソシエイション」は現在、タイに7店舗、カンボジア2店舗、ドバイにフランチャイズを持ち、世界から年間延べ25万人以上が訪れる。その他にも、病院認可を受けたアンチエイジングクリニック、有機ハーブ農園の経営なども手がけ、バンコク市内にスパホテル、プノンペンにスパコンドミニアムなども建設中だ。
13年には現地でロート製薬との合弁会社(資本金11億8,800万円)を設立。新たなステージに突入した。一から現地に入り込んで成長させた加瀬の手腕に、山田邦雄会長も「単純に手堅い、一緒にやりたいと思った」と評価する。
しかし、これまでの道のりは、まさに”ジャングル″。創業時の自宅兼店舗は、業者に泣きつかれ、工事代金の残金を完成前に払ったら翌日から連絡がつかなくなり、仕上げのタイルは自分で貼った。店舗の売上を盗んだスタッフに泣きつかれ、警察に届けず退社させたら、次の日に労働局へ不当解雇で訴えられた。日本の常識では考えられないことの連続だった。