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2016.09.03

「リベンジを果たせた最新作」是枝裕和監督インタビュー -Part3-

是枝裕和監督(写真=テラウチギョウ)

2013年公開の『そして父になる』でカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞し、その後も『海街diary』、『海よりもまだ深く』と話題作を発表しつづけている是枝裕和監督。6月刊行の著書『映画を撮りながら考えたこと』では、原作モノや続編モノでないと企画が非常に通りづらくなった映画界で、ほぼ全作オリジナルで20余年闘いつづけているその軌跡を振り返っている。数々の書評やインタビュー、TBSブックバラエティ番組『ゴロウ・デラックス』にも取り上げられた本書について、また、普段はなかなか聞くことのできない“映画にまつわるお金の話”について、語ってもらった。


”世界のコレエダ”が語る映画にまつわるお金の話 - Part3 -
「リベンジを果たせた最新作」


——最後に公開中の『海よりもまだ深く』について少しお聞きします。6作目の『歩いても 歩いても』を撮り終えたあと、樹木希林さんをもういちど撮りたいという想いが強かったとお聞きしていますが、希林さんの魅力はどんなところですか。


是枝 軽みと毒かな。雑誌『SWITCH』で、希林さんのロングインタビューをさせてもらって、あらためてわかったんですが、だいたいあの年齢になると普通は重くなるんです。役にも、自分自身にも、重さを求めはじめる。軽演劇をやっていた人は悲劇をやりたがるように、コメディをやっていた人はシリアスな演目をやりたがるように。でも希林さんはいつまで経っても軽やかなんです。重さをまったく求めない。
 
実際、先のインタビューでも「役者ではなく、芸能人でいたい」とおっしゃった。そういうのってなかなかいえないし、体現できないですよね。すごく冷めた目で自分のことを見ていて、いま私は芸能人としてどのくらいの価値があるのか、どのくらいのポジションにいるのかということを、自分で確認しながら楽しんでいるところがある。映画の宣伝のためにテレビのバラエティ番組に出演するときも、自分がそこで当意即妙な切り返しができるのかできないのかを自ら問いただす。だから映画の宣伝くさくないおもしろさがあるんでしょう。
 
そういう意味で、これなら映画の宣伝として出演してもすごく意味があると思うのは、樹木希林さんと綾瀬はるかさん。綾瀬さんは素晴らしい凛とした役者だけど、素の綾瀬さんって本当におもしろい。狙ってないのに常におもしろいというのは、なかなか女優にはいない稀有なタイプかなと。カンヌ国際映画祭の記者会見でも小津安二郎についての質問がきたときに、いきなり僕の方にむかってコソッと「監督、監督。あれ、なんでしたっけ、『秋刀魚食堂』?」っていったんです(笑)。「んー、『秋刀魚の味』かな?」「ああ、それだそれだ!」というやりとりがあって……。たぶん『海街diary』の重要な舞台となる「海猫食堂」とまじって勘違いしたんだと思うけれど、本当に場が和みます。
 
さきほども電波ジャックについて批判めいたことをいいましたが(笑)、映画の宣伝で出演するときは宣伝以上のお土産を見た人に渡したい、という想いがあるんですよね。「映画ってなんだろうな?」と見た人に考えていただけるような……。そういう豊かさ・深みがせめてあればいいなと思います。
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インタビュー・構成=堀 香織

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