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2016.09.01 19:00

「映画を黒字化するために」是枝裕和監督インタビュー -Part1-

是枝裕和監督 (写真=テラウチギョウ)

是枝裕和監督 (写真=テラウチギョウ)

2013年公開の『そして父になる』でカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞し、その後も『海街diary』、『海よりもまだ深く』と話題作を発表しつづけている是枝裕和監督。6月刊行の著書『映画を撮りながら考えたこと』では、原作モノや続編モノでないと企画が非常に通りづらくなった映画界で、ほぼ全作オリジナルで20余年闘いつづけているその軌跡を振り返っている。数々の書評やインタビュー、TBSブックバラエティ番組『ゴロウ・デラックス』にも取り上げられた本書について、また、普段はなかなか聞くことのできない“映画にまつわるお金の話”について、語ってもらった。


”世界のコレエダ”が語る映画にまつわるお金の話 - Part1 -
「映画を黒字化するために」


――『映画を撮りながら考えたこと』を機に、ご自分の制作の軌跡を振り返った率直な感想はいかがですか。

是枝 「あとがきのようなまえがき」にも書いたのですが、自分の作品について語ることはあまり好きではないんです。ただ、生粋の映画人でなくテレビディレクターとしてキャリアをスタートした自分が、そのDNAに深く刻まれている「テレビ」について語ることは、少なくとも僕にとって必要かもしれないと思った。「映画」についても、映画監督としてではなく、テレビディレクターである自分が自作を通して行う映画についてのルポルタージュとなればいいかなと。そのあたりは成功したんじゃないかと思います。

一方で、自己の作品を一つひとつ振り返った率直な感想としては、もう振り返るほどの時間を積み重ねてしまったのかと(笑)。デビュー作の『幻の光』の公開から今年で21年ですが、「20年やってきて、まだここか」という想いもありました。50歳でこれくらい、という自分なりの予測には、残念ながらぜんぜん届いていない。もう少し先を目指したいといまも少し焦っています。

――とはいえ、約20年の映画制作のなかでも、8作目となる『奇跡』からのここ5年間の追い上げ感というか、計4作公開となるスピード感、製作費や公開館数などの規模の拡大はすさまじいと思うのですが。

是枝 これにはきっかけがあります。2009年9月公開の7作目『空気人形』が興行的に赤字となり製作費が回収できないという状態になったとき、「映画作家としてやっていくのはそろそろ限界かな」と実感したんです。自分のこれまでの方法論に固執していてはじきに映画が撮れなくなるんじゃないか、という危機感もあった。

それでいったん立ち止まってこれからの方法論を模索するため、年明けの2010年1月に「映画はしばらくお休みします」という宣言をしたのですが、直後に「新幹線をモチーフに映画を撮りませんか」というお話をいただいたんです。最初は地域協賛モノや企画モノは制約が多すぎてたいがい失敗するので断ろうと思っていたのだけど、いろいろ考えて、外からモチーフを与えられてオリジナル脚本を書き下ろすことを、あえてやってみようと引き受けることにしました。それで完成したのが『奇跡』という映画です。その後、『そして父になる』、『海街diary』を撮ったわけですが、その3本が自分としては風通しがすごく良かった。

いみじくも村上春樹が、「原稿用紙4枚で自分自身について説明するのはほとんど不可能だが、牡蠣フライについてなら書けるだろうし、それは自分自身を書くことでもある」というようなエッセイを書いていますが、自分も本当にそういう実感をしたんです。作家性や文体、自分好みの題材にそんなにこだわらないほうが、むしろ映画としてはいいものができるんじゃないかな、と。『海よりもまだ深く』で樹木希林さん演じる母親が「何かを諦めないと幸せは手にできないのよ」という台詞をいうんですが、まさにそんな感じというか(笑)。そこからまた映画づくりがおもしろくなりました。
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インタビュー・構成=堀 香織

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