進化するテクノロジーと高まるサイバーリスクにどう向きあうか

IoEをテーマにしたセッション1。センターカメラを囲むラウンド方式のパネルディスカッションで議論が白熱。(写真=下坂敦俊)

テクノロジーが目覚ましい進化を続ける昨今だが、どのようにビジネスに生かせばよいのか。今年6月、「Businnovare(ビジノヴェア)PwC Technology Day」に各分野の有識者たちが集まり、議論を交わした。

加速度的に進化するテクノロジーは、どんなビジネス・インパクトをもたらすのか。PwCコンサルティングが今年6月に開催した「Businnovare/PwCTechnology Day」では、昨今注目を集めているデジタル・サイエンスを中心に(1) IoT/IoE (Everything)の現状と将来像、(2) AI(人工知能)による意思決定の支援、(3) サイバーセキュリティの3つのセッションに分かれ、各分野の専門家や企業担当者をパネラーに、活発な議論が行われた。

新技術の活用について議論が交わされたセッション1では、企業がテクノロジーを活用する際の発想について、日米欧の違いを指摘する声があがった。

日本企業は、新しいテクノロジーを業界内の競争に生かそうとする傾向があり、既存製品・モノの性能向上という発想が強い。一方、欧米企業は「ユースケース」から出発し、業界を超えた新しいビジネスモデルを構築するのに活用するのだという。

パネリストたちは「成長性ではアメリカの発想のほうが高い」と言い、テクノロジー活用における日本と諸外国の視点の違いが、企業成長の結果の差を生んでいる実態が課題としてあがった。

企業の意思決定について議論したセッション2では、テクノロジーを取り込む上での、企業全体のマネジメントのあり方がテーマとなった。テクノロジーを企業の成長に生かすには、全体像を描くことと、技術の際を見極められる“水先案内人”が必要だという。今、事業会社のIT部門には何が求められているのか?

最新の知識はITのプロに外注できるため、事業会社のIT部門の業務はマネジメントが主と思われがちだ。だが、パネリストからは「外部サービスを取り込む場合でも、社内でガバナンスをきかせて情報システム部門として責任を持つことが重要」との声が上がる。

サイバー攻撃をテーマにしたセッション3でも、人材についての指摘があった。

日米欧で比較すると「欧米は『セキュリティは自分で守る』という自立型。各社がセキュリティ運用部門を構築し、人材を採用して育てている。日本は外部サービスを買うのが一般的であるため、ソフトとハードは欧米並みだが、それを運用する仕組み、知識、人材が足りない」と登壇者らは問題提起する。

IT業界内の人材の分布をグローバルで比較すると、日本ではITベンダーに偏っているのに対し、アメリカではユーザー企業に圧倒的に多いという。グローバル企業のIT部門からは「ITを内製化している米国のチームでは、技術が分かるため、よいものを探して選別することができる。事業側の要求を噛み砕いて理解し、事業と技術の橋渡し役になれるから、プロジェクトのスピードも速い。日本チームは、営業と技術が分断されており、橋渡し役を担えるリソースが課題」というコメントがあった。

“ミスターIoT”として知られる東京工業大学の出口弘教授は、工学部の出身でありながら、京都大学では経済学部の教授をつとめた、異色の経歴の持ち主。企業がイノベーションを進めるには“越境”が必要だと話す。「学際的な問題意識を持った人が積極的に境界を超え、空気を読まず、縄張りを踏み荒らす。領域を外して、“理論屋”と“実践屋”がディープな議論を徹底してやるべき」と力を込めた。
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文=木村元紀

この記事は 「Forbes JAPAN No.27 2016年10月号(2016/08/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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