オンデマンドで作れる「曲がる」電子回路/AgIC 杉本雅明

AgIC取締役 杉本雅明(写真=隼田大輔)

プリンテッド・エレクトロニクス分野のトップランナーであるAgICは、試作のハードルを下げることで、幅広い分野での協業を実現。市場の立ち上がりが停滞していた業界内の開拓者として注目を浴びている

電子回路や電子デバイスを印刷によって製造する技術を「プリンテッド ・エレクトロニクス」という。2015年8月にはホワイトハウスや国防総省の主導でプリンテッド・エレクトロニクスに特化した研究所が設立され、1億7,100万ドルの投資を決めたほどの急成長が期待される分野だ。

同領域のトップランナーであるAgICは、回路を形成するフィルムに施す十分な精度を持つプリント技術、導電性のあるインクや定着用接着剤のノウハウ、安定稼働する回路パターンについての知見を誇る。

従来の電子回路の多くは金属の必要な部分だけ残す「エッジング」という手法で生産されてきたが、プリンテッド・エレクトロニクスは金属を含むインクを塗布する。曲げたり丸めたりできる薄い電子製品に仕上がる上に、初期投資は10分の1以下。完全なオンデマンド生産に対応する。

「需要が未知数でも始められるのが面白いところです。ドキュメントを印刷するように扱えるので、回路設計の経験がない内装デザイナーでも手軽に扱えます」

サミットでは、i-ROAD用のヒーターやコントロールパネルの開発を提案した。

関電工のCMに活用されたことで一段と注目が高まったAgICの協業先は幅広い。この夏には、博報堂および紙の専門商社である竹尾と「光れ!紙銀ナノinkと紙のミライ展」を共同開催。紙と先端技術とデザインを融合させ、電気が通るインクを使った「光る」紙の作品を展示した。

16年8月には、インクジェット印刷回路のオンデマンド製造サービス「AgICオンデマンド」を開始。印刷によって製造プロセスを大幅に簡略化し、試作価格を5分の1以下にまで削減している。各種フレキシブル基板の試作に加え、タッチパネル、デザイン照明、センサ埋め込み型のフィルムなどへも応用していく。

さらに、常温硬化する導電性接着剤「ノーソルダー」を発売。ハンダの代替品として、金属膜を侵食せずにICチップ等を電気的に接続できる上に、繰り返しの曲げや衝撃にも強い。

「我々の特徴は、試作のハードルを劇的に低くしていることです。材料メーカーからユーザーまでみんなを引き込む“結節点”になるという考え方ですね。様々な用途に対して簡単に回路を作れる文化や環境をつくっていきたいです」

AgIC
資本金:2億4,070万円(資本準備金含む)
設立:2014年1月
事業内容:プリンテッド・エレクトロニクス製造技術の開発、サービス提供

すぎもと・まさあき◎2012年、東京大学大学院理学系研究科理学修士取得。慶應義塾大学大学院SDM研究科博士課程単位取得退学。サイエンス・カフェ、ARビリヤード制作ベンチャー設立を経て14年1月にAgICを共同創業。

文=土橋克寿

この記事は 「Forbes JAPAN No.27 2016年10月号(2016/08/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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