ーコンピュータ取引専門のヘッジファンドの成績が好調と言われています。
パタースン:コンピュータ取引を行うファンドにも、いろいろある。米ヘッジファンド史上最も大きな成功を収めているルネサンス・テクノロジーズは、80年代から有力なコンピュータ取引会社として知られるが、常に抜群のリターンを記録している。
高頻度取引業者は、非常に高いリターンというわけではないが、5%、8%など、一貫して安定した数字を叩き出している。競合他社に後れを取らないように同様のストラテジーを用いる会社は増えており、取引速度や効率性に磨きがかかっている。
ーヘッジファンド業界の業績は低迷していますが、AIなど、コンピュータ取引によるファンドは伸びています。この流れは加速するのでしょうか。
パタースン:もちろん。今や長期投資にもAIが使われる時代だ。市場が完全にコンピュータの管理下に置かれ、コンピュータ同士が話をする日が訪れるかもしれない。トレーダーは不要。働いているのはプログラマーのみ、という日がね。ルネサンス・テクノロジーズのほかには、ツー・シグマ・インベストメントなどもAIを用いている。AIは、市場で、ますます大きな部分を占めるようになっている。
グーグルのようなIT企業からヘッジファンドへの人材の流動化は、何年も前から見られるトレンドだ。グーグルのほうが年俸が高いため、ヘッジファンドはAI専門家の人材確保に苦労しているが。
ーAIを使った取引にはどんな問題点がありますか?
パタースン:AIプログラムの多くが似通っており、ストラテジーが酷似しているため、集団効果により、ある種のバブルが生じる。そのため、ひとたびコンピュータが予期しないような問題が生じると非常に危険であり、不安定化を招きやすい。アルゴリズムに狂いが生じ、猛烈な勢いで売り注文を出し続け、制御不能な、なだれ現象を引き起こす。そして最後にはクラッシュしてしまう。
ルネサンスも以前、これが原因で巨額の損を出した。多くの取引会社がメルトダウンと紙一重の状況にある。コンピュータによるウォール街の支配が進むにつれ、こうしたリスクが生じる。
スコット・パタースン◎『ウォール街のアルゴリズム戦争』著者で「ウォール・ストリート・ジャーナル」記者。