ビジネス

2016.08.18 09:00

インドの新星を危機から救った「社員第一主義」

スナップディールのクナル・バールCEO(手前)とロヒト・バンサルCOO(奥)


救世主の名は「ソフトバンク」
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14年7月、バールとバンサルはソフトバンクの孫正義社長と東京で面会した。孫は以前にもスナップディールに対して興味を見せていた。だが今回、是が非でも交渉を成立させたいのはスナップディールのほうだった。孫はアリババの創業者ジャック・マーへの投資を成功させ、15年以上もアリババの成長を見守ってきたことで知られている。

「15年以上も前に中国が成長市場になると見抜いていた孫は、次はインドだと確信していた」と、ソフトバンクの代表取締役副社長兼COOのニケシュ・アローラは語る(編集部註:アローラは16年6月に退任)。

「孫も私もバールの業績に胸が高鳴りました。バールとバンサルがインドのEコマースを根本から変えようとしているのはまちがいありません。大規模小売業の市場規模が需要に見合っていないこと、若年層へのITの普及、個人消費の爆発的な拡大などを考えれば、インドへの投資の下地は整っています」
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ソフトバンクは同年10月、スナップディールに6億2,700万ドルという破格の出資をおこない、筆頭株主となった。これで同社は財政的な足かせから解放され、Eコマースの競合たちと互角に戦えるようになった。

「ソフトバンクは、両手両足を縛られたまま全速力で走ろうとしていた僕らを救ってくれた」と、バールは話す。

加えて、孫正義はスナップディールがジャック・マーと同じ道を辿れるような道筋もつけてくれた。バールによれば、孫は「コアプラットフォームを固めてから、Eコマースのエコシステムを構築すべき。そのためには、消費者のさまざまなニーズに応えられるよう、長期的な視点に立って差別化戦略を展開することが大事だ」と語ったという。

そうしたこともあり、スナップディールは、アリババとイーベイを手本に“デジタル&Eコマースのエコシステム”をつくり上げようとしている。15年3月には金融サービスのマーケットプレイスを手がける「ルピーパワー」の過半数株式を取得。続いて、簡易決済サイトの「フリーチャージ」を4億ドルで買収した。

これにより、両企業の顧客基盤は4,000万人に拡大。スナップディールは18〜25歳までの若年層を取り込むことができる。バールはこう語る。

「僕らがフリーチャージを買収して悟ったことを、インドのEコマース企業もそのうちわかると思うよ。イーベイ&ペイパル、タオバオ&アリペイのように、Eコマースとオンライン決済の提携は互いのプラスになるということを、ね」

ついに、スナップディールにとっての「Eコマースのエコシステム」が具体化し始めたのだ。

ソフトバンクから追加出資を受けると、スナップディールは事前の計画に沿って短期間で次々と企業を買収していった。バンサルとバールはこれを“計画的攻撃”と呼んでいる。

一連の買収はスナップディール傘下の子会社を増やすことで、垂直的提携を多様化することが狙いだ。そして、顧客の思いつきや好みに合わせた顧客中心のサービスを提供できるようにする。この手法は世界最大手のフェイスブックやグーグルからヒントを得たという。

「僕らは、Eコマースが将来的に画一的なプラットフォームではなくなると気づいた。フェイスブックもアプリの統合について語り始め、Eコマース市場に変化が起きることを予感したんだ」と、バールは言う。

スナップディールはルピーパワーやフリーチャージに続き、お薦めギフトを紹介する「ウィッシュピッカー」や、高級製品を販売する「エクスクルーシブリー」、モバイルコマースのスタートアップ「マートモビ」などを次々と買収。物流企業「ゴージャバス」の少数株式を取得して戦略的パートナーシップを結んだこともスナップディールにとって非常に重要なステップとなった。いまもいくつかの買収案件が進行中だという。

また、人材の獲得にも取り組んできた。最近も十数名の経営幹部を外部から招いている。経営陣の質はスナップディールにとって大事な要素だ。彼らは、国内最強の経営チームでなければならない。バールとバンサルはスナップディールを立ち上げるとき、誰かにこう言われたという。「常に自分より優れた人材をそばに置いておきなさい」
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文=シュタパ・パウル、翻訳=岡本富士子 / アシーマ

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