ビジネス

2016.08.18 09:00

インドの新星を危機から救った「社員第一主義」

スナップディールのクナル・バールCEO(手前)とロヒト・バンサルCOO(奥)

スナップディールのクナル・バールCEO(手前)とロヒト・バンサルCOO(奥)

中国に続く成長市場として世界中から熱い眼差しが注がれるインド。ビジネスモデルを変え続ける同国の新星は、小売市場制覇を目指す。

2013年2月、デリーの冬もようやく終わろうとしていた。だが、オンライン小売り「スナップディール」のクナル・バールCEO(32)と最高執行責任者(COO)のロヒト・バンサル(32)には、春の気配などまるで感じられなかった。

銀行には10万ドルの資金しかないのに、100万ドルに上る社員の給料日が迫っている。彼らは倒産の瀬戸際に追い込まれていたのだ。

重役会議では2つの選択肢が示された。経費削減か、従業員の解雇か。

答えはすぐに出た。

「満場一致の決定だったよ。ただの1人も解雇しないー。僕らのビジネスには、工場も機械も必要ない。ビジネスを担うのは人だったからね」と、バンサルは語る。

幸いなことに150万ドルのベンチャー投資を受けられることになり、どうにか給与の支払いに間に合った。ただ従業員の解雇という最悪の事態は免れたものの、企業の生き残りが最優先課題であることに変わりはなかった。

「この状況から抜け出せる日が来ることはわかっていたけれど、強く健全な企業に生まれ変わりたかった」とバンサルは話す。

「水道光熱費や営業費を削減し、ありとあらゆる経費に目を光らせた。クナルと僕にかかる重圧たるやすさまじかった。なにせ、多くの従業員の生活が僕らにかかっていたわけだから」

それでも、これから待ち受ける難題に比べればたいしたことはないはずだ。スナップディールが目指すのは、顧客にとっての“ワンストップショップ”。しかも自立的なエコシステムを構築して、まったく新しいビジネスモデルや収益性、成長目標、イノベーションなどを提案しようとしている。そのうえ、国内のライバルであるフリップカートには先を越され、背後には世界最大手のアマゾンが控えているのだ。

進化を止めない「クーポンサイト」

スナップディールは、これまでに6回もビジネスモデルを変えてきた。そして、今もなお方向転換・進化を続けている。

「進化しない企業は死んでしまう」と、バールは断言する。

バールとバンサルは22歳だった07年、ジャスパー・インフォテックという会社を設立。さまざまな小売店で利用できるクーポン冊子「マネーセイバー」を発行したが、手間と時間がかかるうえに、大量の在庫を抱えてしまった。

結局、10年1月にこのクーポンサイトを売却することにした。その後、地元のレストランや美容院が行う日替わりセールについての情報を提供するオンライン・プラットフォーム「スナップディール」を立ち上げた。
 
11年11月の中国訪問は、バールとバンサルにとって大きな転機となった。中国Eコマースの巨人「アリババ」の成長に感銘を受けた二人は、消費者の本当のニーズに応える同社のビジネスモデルをインドでもまねるべきだと確信した。彼らには直近の失敗から学んだ教訓が心に刻まれていたのだ。

「僕らがマネーセイバーを立ち上げるまで1年かかった。そして、開始から1週間で消費者はこんなサービスを求めていないことに気づいた。そのとき、消費者の声に耳を傾け続けることがいかに大事かを痛感したんだ」

スナップディールは、Eコマースサイトの運営に参入を決めた。会社としての力を高めて、自由に采配を振るえるようになったのは8回の投資ラウンドを経てからだった。

「国内で急成長したIT企業より、はるかに険しい道のりだった」と、バールは振り返る。

「IT企業の多くは自分がキャリアを積んだ業界で起業するもの。でも、僕らの場合はクーポン冊子の会社としてスタートしたからね」

スナップディール◎2010年創業のオンライン・マーケット企業。創業者は、クナル・バールとロヒト・バンサル。クーポンサイトを企業した経験を持つ2人が中国のアリババをモデルに立ち上げた。14年にはソフトバンクが投資したことで日本でも知られる存在に。マーケットシェアでは最大手フリップカートに遅れをとるものの、金融やオムニなど、さまざまなチャンネルを通じてエコシステム拡大させている。
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文=シュタパ・パウル、翻訳=岡本富士子 / アシーマ

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