サントリー新浪CEOが語る、「グローバル化」と「やってみなはれの精神」

サントリーCEO、新浪剛史(Photo by Jan Buus)

サントリーに転じた新浪CEOには「グローバル化」のミッションが託されていた。就任から2年経った今、同氏に訊く、日本のCEOが世界で戦うために必要な条件。

「今一番ニューヨークでおいしいって言われているクラフトバーボンを飲ませてよ」

マンハッタンのバーのカウンターで、バーテンダーの男にそう言ったのは、サントリーホールディングスの社長、新浪剛史がアメリカに出張中の今年3月のことだ。「どうやってつくっているの?」と聞く新浪にバーテンダーはこう答えたという。

「スタンダードなバーボンはホワイトオークの新樽を使って熟成しますが、これは、その後にシェリー樽に詰め替えるなど色々工夫している。ねっ、おいしいでしょう」

現場ではどんな飲み方をしているのかー。多いときで月に3回は欧米に出張する新浪は、それを常に問う。

例えば、ケンタッキーのバーボンの歴史は200年以上あるが、そのつくり方や飲み方は時代とともに大きく変わってきている。昔はバーボンというとコーラで割ることが主流だったが、今は柑橘系のフルーツやミントなど、いろいろなものと組み合わせて飲む。そんな「ミキサビリティ」を主導するのが、1980年代から2000年代初頭にアメリカで生まれたミレニアム世代だ。

ミレニアム世代とは言ってもさまざまで、例えば、ヒスパニック系住民が多く暮らすマイアミとロサンゼルスとを比べても、その嗜好は大きく異なる。飲み方にどんな違いがあるのか。彼らはそこにどういうストーリーを求めているのか。「それを現場で見て、考えることが面白い」と新浪は強調する。

彼はそれまで数多くの海外現場を見てきた。三菱商事時代はフランスの給食会社と合弁会社を設立。その後転籍したローソンでは、中国やインドネシアで店舗展開する際、現地に長期滞在している。

そんな新浪に大きな転機が訪れたのは14年のことである。ローソン会長からサントリー社長に転じたのだ。「よりグローバルに舵を切りたい。一緒にやりませんか」。佐治信忠会長兼社長(当時)にそう誘われたという。

80年に米ペプシコーラのボトリング会社、ペムコム買収を皮切りに事業のグローバル化を進めてきたサントリーは、09年以降、急速にM&Aが大型化した。ニュージーランドのフルコア(750億円)、フランスのオランジーナ(3,000億円)、イギリスのグラクソ・スミスクラインの飲料事業(2,100億円)。そして、14年5月に1兆6,500億円を投じて世界第4位のスピリッツメーカー、米ビームを傘下に収めた。

確かに、国内人口が減っていくなかで、世界に打って出るというのは当然の帰結である。三菱商事やローソンで海外との合弁事業を成功させた新浪には、その経験とノウハウがある。

しかし、彼がサントリーに転身を決めた動機の根底には、佐治と二人三脚で経営にチャレンジしたいという側面もあった。

「いやぁ、すごいでっかい”やってみなはれ”だと思いましたよ。だって初めてでしょう、外から社長を呼ぶなんて。だから、佐治会長は本気だと思った。じゃあ僕も本気でやりますよと」

そのままローソンの経営者として過ごす道も、新浪にはあった。だが、チャレンジを選択した。新しいことを始めることで自分が活性化され、さらに成長できると考えたのである。ー日米を代表する伝統企業の橋渡し。彼はそんな新境地を目指すことにしたのだ。
次ページ > サントリーを勝たせる差別化要因

文=北島英之

この記事は 「Forbes JAPAN No.26 2016年9月号(2016/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事