その手段とは規制当局の手を借りることだ。EUの行政執行機関である欧州委員会は今年後半、新たな電子プライバシー法案を策定。無料のメッセージングサービス各社に対し、従来の通信企業と同様のルールを適用する。
無料通信アプリに対してはこれまで、大手通信企業のインフラに“タダ乗り“しているとの批判が絶えなかった。彼らが数十億ドルを投じて築いた通信インフラを、シリコンバレーの企業が無料で用い、巨万の富を生んでいるというのだ。
このような無料アプリに法的規制を適用することは通信企業にとって最良の手段だ。フィナンシャル・タイムズが公開した内部資料によると、将来的にこれらの無料アプリは、EUが定める新たな“セキュリティと機密保持規約”の順守を求められる。
欧州圏内のデータセンター設置が必須に
「今回の規制によりWhatsApp等の通信アプリが欧州のユーザーにサービスを提供する場合、欧州圏にデータセンターを設置することが必須になる」と、アナリストのCyrus Mewawallaは述べている。通信アプリの会話は暗号化されている場合も多いが、アプリがテロリストに使用されている懸念が持たれた場合、当局が会話内容にアクセスすることも可能になる。
「テロの脅威が高まる欧州では、軍関係者らの間で無料アプリがテロリストの司令塔になっているとの声が高まっている。治安維持の観点から見ても今回の規制は妥当なものと言える」
今回のフィナンシャル・タイムズが報道した内容は、近年のEUの規制強化の流れに沿ったものだ。EUは昨年、域内の個人データ保護を大幅に強化する「一般データ保護規則」を可決。フェイスブックやアップルといった米国企業のEU圏での活動に大きな影響を及ぼすと見られていた。
8月初旬に欧州委員会は、個人データ保護法「The ePrivacy Directive」の改訂に関するアンケート結果を公表。回答者らの大半は電子コミュニケーションの規制強化に賛同する意志を示していた。ここには英国のEU離脱の影響も見られるという。
「イギリスは欧州諸国の中で唯一、米国のテック企業側につく国です。他の欧州諸国が規制強化を求めるのに対し、イギリスだけは自由を望んでいる」とMewawallaは述べる。しかし、EU離脱を決めた英国は、この規制強化の流れに対し発言権を持たない。
「イギリスが欧州での影響力を失うにつれて、ヨーロッパ諸国はさらに保護主義的な方向に進むでしょう。ヨーロッパの通信会社の権益を米国のテック企業の侵攻から守るのです」とMewawallaは付け加えた。