ビジネス

2016.08.22

ソニーの新規事業創出プログラム、SAPの背景には何があるのか?

(左)ソニーモバイルコミュニケーションズ代表取締役社長 兼 CEO 十時裕樹 (中央)ソニー新規事業創出部担当部長 小田島伸至 (右)ソニー新規事業創出部wena事業室統括課長 對馬哲平(photographs by Masafumi Maruyama)


小田島はまず一人ではじめ、仲間を募りながら、ボトムアップでつくり上げていく。そして、平井、十時の後押しもあり、14年4月に新規事業創出部が立ち上がり、SAPが本格的に始動した。既存の事業部に受け皿のないアイデアや、各事業分野にまたがる複合的な事業開発支援という部門横断的な役割のため、社長直轄のプログラムとして発足した。

SAPの中核は、グループ社員から新規事業のアイデアを募集し、社内外の専門家を集めて審査を行う「SAPオーディション」だ。年齢や職歴を問わず自ら手をあげることで挑戦でき、最終審査で選出されたチームのメンバーは専任となって事業化に向けて動き出す。まず3カ月間検証し、「収益化でき、自分たちで食べていける」ものだけを選定し進めていく。“スタートアップ”に主眼を置き、新たなビジネスコンセプトのスピーディーな事業化を促していく仕掛けだ。その判断基準に「ソニーらしさ」という漠然としたものは入れていない。

オーディションは3カ月に1度行われ、これまでに7回開催され、およそ550件、1,500人から応募があった。オーディションのみならず専用SNSやワークショップ、ビジネスモデル構築のトレーニングなどを含めると5万人以上が関わっている。


「入社面接でも『ウエアラブルで生きていく』と宣言したぐらいで、入社前から構想はありましたし、事業化したいという強い思いもありました。どうすればできるのかーそう模索する中で、SAPの存在を知り、挑戦したいと応募しました」

そう話すのは、14年春に入社した、現・新規事業創出部wena事業室統括課長の對馬哲平だ。クラウドファンディングサイト「ファーストフライト」で日本史上最高となる1億円超えの支援を集めた「wena wrist(ウェナ・リスト)」。ヘッド部分はアナログ時計を採用しながら、FeliCaを活用したおサイフケータイ、電話やメールの着信通知、歩数や消費カロリーの計測という3つの機能を備えたウエアラブル端末である。「ウェナ・プロジェクト」リーダーの對馬は、第2回オーディションに参加し、5月にクラウドファンディング支援者への発送を完了。一般販売開始に向けて準備を行っている。

「SAPだから実現できたと言っても過言ではありません。事業責任者が意思決定できるため、通常だと2年ぐらいはかかるところを、プロジェクト開始半年で製品をクラウドファンディングに出すことができた。自分で決められるからこそ、稟議を何回も通し
て、斬新なアイデアやエッジのきいた製品が”まん丸”になることも避けられ、クラウドファンディングで寄せられた意見も即座に反映させることもできる。

製品化過程でも、大企業の持つ資産をうまく生かせた。部品一つとっても、社内に専門家がいるため、すぐに相談でき、スピードを落とさず開発できる。さらに、会社としての認知やつながりもあり、順調に進んだ。例えば、今回、ヘッドの部分は、シチズン様に作っていただいているのですが、こうした取引ができるのも、我々がベンチャー企業でなく、ソニーだったからだと思います」
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文=Forbes JAPAN編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.25 2016年8月号(2016/06/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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