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2016.08.14

淀川製鋼所 ヨドコウ迎賓館〜AWAY FOR THE SUMMER〜[企業の迎賓館訪問 vol.3]

ヨドコウ迎賓館 2階応接室 (photographs by Michinori Aoki)

国内外の賓客をもてなす企業の「迎賓館」。それらはときに名建築であり、文化遺産であり、企業の精神そのものを表す。連載第3回は、20世紀最高の建築家のひとりと言われるフランク・ロイド・ライト設計の「ヨドコウ迎賓館」を訪問した。

兵庫県芦屋市の緑に囲まれた小高い丘の上に立つ瀟洒な住宅「ヨドコウ迎賓館」―ここは一般公開されている(※)、稀有な迎賓館だ。

もともとは「櫻正宗」で有名な神戸・灘の酒造家、8代目山邑(やまむら)太左衛門の別邸として建てられた。設計は、旧帝国ホテル建設のために来日していた近代建築の巨匠、フランク・ロイド・ライト。

ある暑い日に芦屋を訪れたライトは、亜熱帯のような気候だと理解して、「避暑」を目的としたシェルター型のRC(鉄筋コンクリート)造の住宅を設計したという。彼の帰国後は、帝国ホテルの建設にも携わり、ライトが「MY SON」と呼んで絶大な信頼を寄せていた遠藤新(あらた)と南信(まこと)が実施設計・監理を引き継ぎ、大正13(1924)年に完成を見た。

時は流れて、昭和22(1947)年のこと。山邑家から実業家の手に渡っていたこの建物を、社長邸を探していた淀川製鋼所が購入した。のちに貸家や独身寮としても使用していたが、老朽化が激しくなり、同敷地内にマンションの建設を計画したところ、建築界が保存運動を起こす。

敷地に資材を搬入するほどまで事は進んでいたのだが、その世論を誠実に受け止めた当時の社長は、保存を決定。「社会貢献事業」に切り替え、国の重要文化財に申請すると、昭和49(1974)年、大正時代以降の建造物かつRC造建造物として初めて指定された。その後、保存修理工事に着手。約2億3,000万円をかけて完了させ、平成元(1989)年より一般公開を開始した。

建物は4階建てだが、ゆるやかな山肌に沿うように階段状に建てられているため、奥行きのある2階建てのような錯覚を起こす。また、最北端の門から建物の外観を鑑賞しながら導かれるエントランス、部屋の広がりを感じさせるための小さな入り口、迷路状の回廊など、ライト独特の空間演出が非常に魅力的だ。老朽化のため、一度は「幽霊屋敷」とまで揶揄された邸宅を見事よみがえらせ、後世に残る建造物として守り続ける。淀川製鋼所の使命感である。

(※)開館日は水・土・日・祝、開館時間は10〜16時。最寄駅は阪急芦屋川駅、またはJR芦屋駅。大人・大学生500円、小・中・高校生200円。

企業名 株式会社淀川製鋼所
所在地 大阪市中央区南本町
設立 1935年
事業内容 カラー鋼板を主体に物置などのエクステリア商品、金属製屋根・壁材、ロール、グレーチングなどの製造。
売上高 連結約1,592億円(2016年3月期)
従業員数 連結2,452人(2016年3月末)





文 = 堀香織

この記事は 「Forbes JAPAN No.25 2016年8月号(2016/06/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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