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2016.08.12

失敗を何よりも嫌う男、「世界一のマネーマスター」が明かす投資の極意

ブラックストーン本社44階にあるシュワルツマンのオフィスからはセントラルパークが一望できる。オフィスとつながっている会議室でいつもエスプレッソを飲み、静かなひと時を過ごす。


「引退なんて私らしくないでしょう」

ヘッジファンド分野におけるブラックストーンの運用資産はすでに世界最大となった。とはいえ、従来型のヘッジファンドを取り巻く状況は厳しい。そこでシュワルツマンは再び新たな分野の開拓に乗り出した。内部で運用される複数のストラテジーに投資するタイプのヘッジファンドを静かに立ち上げたのだ。これがセンフィーナ・アドバイザースである。

この比較的新しいユニットはブラックストーン本社から1ブロック離れた場所にオフィスを構え、マネジャーが有望なポジションの発掘に専念できる態勢をとっている。現在、センフィーナの資産は20億ドルであり、各マネジャーの投資額は4.5億ドルに制限され、リスクは中央で集中的にヘッジしている。長期のポジションに集中投資することを推奨し、大手ヘッジファンドのジフ・ブラザーズやシタデルなどからの移籍組を中心に計8人のマネジャーが運用にあたっている。

またここにきて、シュワルツマンはウォーレン・バフェットやジャック・ボーグルといった”賢人”にならい、収益の不安定性を解決する画期的な方法を見つけ出した可能性がある。最近、不動産部門の商品に加えた「コアプラス」ファンドは、事実上のオープンエンド型投資商品であり、従来よりもレバレッジ水準を抑え、長い保有期間で安定的なリターンを追求する。

このファンドは、ブラックストーンにとって「安全な利回り」に対する顧客からの強い需要に対応する絶好の手段である。従来型の「オポチュニティファンド」(投資家へのリターンは高いがリスクも高い)と異なり、手数料は1%の運用報酬と10%の成功報酬で構成され、その運用はブラックストーンがこれまで得意としてきた「購入し、立て直し、売却する」戦略とは一線を画している。

たとえば、15年に53億ドルで取得したマンハッタンのイーストビレッジ北側にある築68年の110戸のスタイヴェサント・タウン複合住宅、通称「スタイタウン」は、今後、きわめて長期間の家賃収入を生み出すと期待される。「コアプラス不動産ストラテジー」は、16年第1四半期だけで4.4%のリターンを生み出しており、預かり資産はすでに120億ドルを超えている。

シュワルツマンの業績に汚点があるとすれば、それはブラックストーンの株価だろう。過去3年間のリターンは63%に達しているものの、依然としてIPO価格を下回っており、他の資産運用会社と比較すると株価収益率(PER)は大幅に低い。それは株価が不安定で一般株主が購入を控えるからだ。

なぜ、そうなるのかー。それは、ブラックストーンの業績は資産売却のタイミングと時価調整に大きく左右されるからだ。たとえば、16年3月31日までの12カ月間にブラックストーンが生み出した純利益は8.99億ドルで、前年の52億ドルから83%の減益となった。また、第1四半期には原油価格と各国中央銀行の政策の影響を受け、世界的に株式市場とクレジット市場が乱高下したためブラックストーンは保有資産の評価額を16億ドル引き下げた。

しかし、前述のコアプラスの導入で一般株主を満足させ、弱点を克服しようとしている。ブラックスト-ンの社長兼最高執行責任者(COO)、トニー・ジェームズは「伝統的なドローダウン型ファンドは資金を集めてそれを運用し、資産を売却して投資家に資金を返すプロセスを繰り返します。これに対して、長期間にわたって資産を保有し続けられることが、コアプラスの強みです」と説明する。

この最新のイノベーションは、10年以内に1,000億ドルに達する可能性もあり、成功すればシュワルツマンが自ら考えるように、金融界の巨人たちと肩を並べる存在になるであろう。

また、シュワルツマンは、かつてのアンドリュー・カーネギーと同じく社会貢献にも大金を注いでいる。08年にニューヨーク公共図書館に1億ドルを寄付し、その中心的建物は「シュワルツマン・ビル」に改称された。昨年は、母校イェール大学に1.5億ドルを寄付した。これは115年の歴史を有する同大学の学生食堂にかわって建設される総面積88,300平方フィートの最先端複合施設である「シュワルツマン・センター」の資金となる。この施設には演劇や芸能のためのスペースや食堂、会議室、展示スペースが設けられる予定である。さらに、伝統あるローズ奨学金を手本に1億ドルを投じて北京の清華大学でシュワルツマン奨学金プログラムを発足させた。

ブラックストーンのビジネスは、あらゆる角度から見て拡大している。ファンドの預かり資産は過去12カ月間で800億ドル増加し、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)やカーライル・グループ、アポロといったライバルを圧倒している。それ以上に注目すべきは、エリート校の学生たちのあいだでブラックストーンのアナリスト養成プログラムが一番人気となっていることだ。15年には84人の定員に対し、アイビーリーグ全大学から合計1.5万人の応募があった。競争倍率は180倍近い水準であり、ゴールドマン・サックスのアナリスト養成プログラムの競争倍率25倍をはるかに上回っている。

シュワルツマンは間もなく70歳の誕生日を迎えるが、CEOを退任する気は全くない。08年からブラックストーンの最高財務責任者(CFO)を務め、15年にエアビーアンドビーに移籍したローレンス・トシも「スティーブは死ぬまで会長職に留まるでしょう」という。

パークアベニューのブラックストーン本社44階にある、セントラルパークが一望できるオフィスで、そのことをたずねるとシュワルツマンは次のように答えた。

「引退なんて私らしくないでしょう」

文=スティーブン・シェーファー

この記事は 「Forbes JAPAN No.25 2016年8月号(2016/06/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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