マネー

2016.08.12

失敗を何よりも嫌う男、「世界一のマネーマスター」が明かす投資の極意

ブラックストーン本社44階にあるシュワルツマンのオフィスからはセントラルパークが一望できる。オフィスとつながっている会議室でいつもエスプレッソを飲み、静かなひと時を過ごす。


このように従来の金融機関は比較優位を失い、「バイサイド」と呼ばれる資産運用会社の力が相対的に高まった。規制が殆ど及ばない3,440億ドル規模のプライベート・エクイティ(PE)帝国であるブラックストーン・グループにとって、非常に有利な状況だ。ブラックストーンの株主であるリバーパーク・ファンドのミッチ・ルービンはこう説明する。

「ゴールドマンやJPモルガン、ウェルズ・ファーゴは経営に問題はないものの、こうしたビジネスの一部を手がけることができなくなってしまった。ある日、突然、アマゾンが映像ストリーミング配信事業から締め出されたとすると、競合相手のネットフリックスにとって、好材料になるのと同じことです」

規制当局は、シティグループやモルガン・スタンレーの従業員報酬の制限に躍起になっているが、規制対象外のブラックストーンのシュワルツマンは15年に合計8億ドルの収入を得ている。これは、ゴールドマン・サックスのトップであるロイド・ブランクファインが得た収入2,300万ドルの35倍でJPモルガンCEOのジェイミー・ダイモンが手にした報酬2,700万ドルの30倍である。シュワルツマンの純資産は102億ドルに達する。ブラックストーンはこれまでに、シュワルツマンを含め資産規模10億ドル以上の資産家を5人誕生させている。これはウォール街史上、最も多い。

ブラックストーンの中核事業であるPE事業では、1987年に第1号ファンドの運用を開始して以来、これまでに損失を計上したファンドはない。年率平均リターンはPEファンドが19%、不動産ファンドが20%、クレジットファンドが14%であり、すべてS&P500指数(過去30年間で年平均リターン9.7%)を上回っている。そして、過去8年間にシュワルツマン率いるブラックストーンが残してきた足跡は、どのような観点から見ても、非の打ちどころがない。

金融危機以降、ブラックストーンの資産は4倍近くに増加した。この間に導入された新商品は2桁に上る。

また、ヒルトン・ホテルズやマイケルズ・ストアーズ、そして有名ブランドのベルサーチやライカ・カメラなど92社の大株主に名を連ねている。さらに、マンハッタンのスタイヴェサント・タウンやシカゴのウィリス・タワーなど数千件の商業用不動産とPE投資会社の中で最も多い一戸建て住宅を米国全土で保有している。ヘッジファンドやクレジットファンドなど、ブラックストーンは、手がけているほぼすべての事業分野で市場の”リーダー”となっている。創業から30年にわたって高いリターンを生み出してきたのがブラックストーンだ。シュワルツマンはこう語る。

「高いリターンを30年間続けたからといって、31年目のリターンも高くなる保証はないと言われます。しかし、その根拠はどこにあるのでしょう。創業間もない頃から、世間にはそう言われてきました。長年の結果をみれば当社の”仕組み”は十分に機能していると断言できます」

シュワルツマンは、やり手の大富豪にありがちな華美な出で立ちとは無縁で173cmの体に身につけるのは地味でゆったりとしたスーツで、その態度は控えめである。それでも、シュワルツマンの言動や暮らしぶりが世間の注目を集めたことも何度かある。

シュワルツマンはマンハッタンのパーク・アベニューに、過去にジョン・D・ロックフェラーが所有していた部屋数が34もある豪華な住居を保有している他、パームビーチやイースト・ハンプトン、ジャマイカ、セント・トロペズのオーシャン・フロントにも住宅を保有している。07年にはロッド・スチュワートやパティ・ラベル、マーティン・ショートといった著名人を招いてニューヨークのパーク・アベニュー・アーモリーで300万ドルをかけた誕生パーティーを開き、大衆の怒りを買った。
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文=スティーブン・シェーファー

この記事は 「Forbes JAPAN No.25 2016年8月号(2016/06/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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