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2016.08.12

失敗を何よりも嫌う男、「世界一のマネーマスター」が明かす投資の極意

ブラックストーン本社44階にあるシュワルツマンのオフィスからはセントラルパークが一望できる。オフィスとつながっている会議室でいつもエスプレッソを飲み、静かなひと時を過ごす。

ブラックストーン・グループは危機のたびに大きく成長し、世界最大の投資ファンド運用会社にまで上り詰めた。失敗を何よりも嫌う会長兼CEOスティーブン・シュワルツマンの哲学とは。

ウォール街の伝説的な投資家として名を馳せたJPモルガンの副会長、ジミー・リーはこの世を去る3カ月前の2015年3月、スティーブン・シュワルツマンに一本の電話をかけた。ゼネラル・エレクトリック(GE)はバランスシートを圧迫していた300億ドルに上る商業用不動産を処分しようとしており、リーはこれに手を貸していた。リーはシュワルツマンに不動産の売却こそ創業123年の老舗企業を再生させる計画の柱だと語った。

資産の売却で最大の難関となったのは、メキシコの倉庫や中東のオフィスビル、豪州の商業用モーゲージなど、多岐にわたる資産とその資金調達が組み込まれたポートフォリオを一手に引き受けてくれる買い手を見つけ出すことであった。

GEが保有する不動産と商業用モーゲージは、6カ国に散らばり、そのリスクは多様であった。GEのジェフリー・イメルト会長にしろ、リーにしろ、こうした世界各地にある数々の資産をすべて把握できる専門能力を有し、短期間で取引のクローズが可能で、ポートフォリオを一手に引き受けられる資金力を兼ね備えている企業として思いつくのはブラックストーンだけであった。

それから4週間後の4月10日、GEのイメルト会長は140億ドルの資産をブラックストーンに譲渡し、90億ドルの商業用不動産モーゲージをウェルズ・ファーゴに譲渡すると発表した。

ブラックストーンはイメルトに救いの手を差し伸べた形となり、それまで低迷していたGEの株価はこの発表を受けて11%上昇した。そして、この取引はブラックストーンにより多くの利益をもたらした。内部情報へのアクセスが可能だったブラックストーンは取引条件や価格交渉で優位に立ち、最終的に取得価格を引き下げることができた。

「あの取引はまさに我が社のための取引でした。グローバルな株式資産と不動産ローンポートフォリオ双方を購入できる態勢を整えている企業は我が社の他にありません」とシュワルツマンは胸を張る。

ブラックストーンが15年に行ったこの巨額の資産取得は、こうした分野を牛耳ってきたJPモルガンやゴールドマン・サックスがウォール街の王座から陥落したことを意味していた。ブラックストーンを頂点とする新たなヒエラルキーが誕生し、会長兼最高経営責任者(CEO)のシュワルツマンこそ、地球上最強のマネーマスターだと高らかに宣言する出来事だった。

”年収8億ドル”の男

ウォール街の驚異的な収益力はリスクを取ることで生み出されてきたが、08年の金融危機以降、リスクを取ること自体が難しくなっている。かつてトレーディング分野で最強の名をほしいままにしたゴールドマン・サックスは、巨大金融機関の金融商品の購入や売却などを制限する「ボルカー・ルール」が導入されたことで、事実上、トレーディングが阻止された。以前であれば積極的に食いついたであろうJPモルガンやドイツ銀行などの大手銀行も同様に自己資本規制により融資業務やマーチャント・バンキング業務が制限されている。
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文=スティーブン・シェーファー

この記事は 「Forbes JAPAN No.25 2016年8月号(2016/06/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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