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2016.08.10

リオ五輪で流行の「吸玉療法」 丸いあざに潜む危険性

米国の競泳選手マイケル・フェルプス(Photo by AAron Ontiveroz/The Denver Post via Getty Imagesettyimages)

4年に1度行われる夏季五輪では、毎回決まって奇妙なパフォーマンス向上法が流行する。2008年の北京と12年のロンドンで流行ったのは「キネシオテープ」で、多くの水泳選手がこれを腕や脚に貼っていた。今年の流行は、体中に赤や紫のあざを残す「カッピング(吸玉)療法」だ。

五輪史に残るトップ水泳選手のマイケル・フェルプスも今週、このあざだらけの体で登場した。他にも、五輪水泳女子メダリストのナタリー・コーグリンや、体操男子のアレクサンダー・ナドアの体にも丸いあざがあった。

米メディアは8日、フェルプスのあざについて説明する記事をこぞって掲載した。USAトゥデイは何の疑いも持たずに、カッピングには「緊張した筋肉をほぐす」効果があると報道。ニューヨーク・タイムズも明るい論調で「カッピングは対象部位に血液を集め、痛みを和らげたり、使い過ぎた筋肉の回復を早めたりする効果があるとされる」と伝えている。

またピープルも同様の効能を紹介した上で、「フェルプスが昨夜、通算23個目の五輪メダルを獲得したことを考えると、反論するのは難しい」とまで加えている。

だがカッピングには、その効能を証明する科学的・医学的な証拠はない。ニューヨーク・タイムズもこの点について若干の疑問を呈している。同紙は、カッピングには偽薬(プラシーボ)と同様の効果しかないことを示した2つの小規模実験結果を紹介しているが、最終的には他のメディアと同じく、カッピング信奉者が示した裏付けの乏しい情報を証拠として伝えている。

本記事では、こうした「証拠」の精査ではなく、著名科学ブロガーのオラク(Orac)が先月投稿した、カッピングの効能を徹底的に否定する文章を紹介しよう。

「代替医療の中でも最もばかげたものの一つに、カッピングと呼ばれるものがある。(…)カッピングによる吸引は、毛細血管を破壊する。カップ形のあざができるのは、これが理由だ」

オラクが指摘する通り、カッピングを同じ部位に繰り返し施すと、皮膚が破壊され、危険な感染症につながる恐れがある。また、医師のハリエット・ホールも、2012年に米誌スレートに寄稿した記事で同様の問題を指摘している。

カッピングがタイム向上につながるとの情報をマイケル・フェルプスが誰から得たのかは分からないが、誤ったアドバイスであることは確かだ。有用ではないし、体に害をもたらす危険性すらあるからだ。

スポーツ選手が迷信深く、競技前にさまざまな「儀式」を行って士気を高めているのは、私も承知している。キネシオテープや、「幸運のシャツ」といった縁起担ぎアイテム、「フィールド入りする時には必ず左足から」といった決まりは、必ずしも悪いものではない。だがマイケル・フェルプスをはじめとする五輪出場選手たちは、体に害を与える恐れがある代替医療からは全速力で遠ざかるべきだ。

編集=遠藤宗生

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