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2016.08.12

シリコンバレーからインドへ、新しい中心地と新エコシステムの姿

Photo by Rema Chaudhary

世界中から「カネ」「ヒト」「テクノロジー」が集う、新たなエコシステムが生まれた地ではいま何が起きているのかー。

成長する国力、高い若者率、英語の浸透ー。ユニコーンが誕生する要素はすべてここにある。目端の利く投資家たちはすでにその舞台をシリコンバレーからインドに移している。

「今後、インドでの投資を“真剣に”加速させようと私は考えている」

ソフトバンクグループ代表の孫正義は2016年1月、インド・ニューデリーで開催されたスタートアップ・カンファレンスに登壇し、そう強調した。ソフトバンクは14年10月、インド最大級のeコマースサイトのスナップディール(Snapdeal)に6億2,700万ドルを出資。その他にも、タクシー配車プラットフォームのオラ(Ola)、不動産サイトのハウジング・ドットコム(Housing.com)、ホテル予約サイトのオヨルームズ(OYO Rooms)へと相次いで出資を行ってきたが、今後数年間で実施する100億ドル投資計画の序章に過ぎない。「次のアリババはインドから」と狙いを定めている。「インドではスタートアップが急増するだろう。市場はそれぞれ異なるが、今こそインドで“ビッグバン”が起き、さまざまな発展がはじまる」(孫)

世界のスタートアップ・シーンは15年秋以降、明らかに潮目が変わったと言われている。これまで牽引役を担っていた米シリコンバレーでは、ユニコーン企業(企業価値10億ドル以上の未公開企業)の不調をはじめ、投資環境が停滞気味。そんな“警戒する雰囲気”とは真逆の“強気姿勢”が続くのが「インド」である。15年、インドのテクノロジースタートアップ企業の資金調達額は総額にして65億ドル(NASSCOMレポート参照)、右肩上がりに増加している。

「インドのスタートアップへの投資環境として、私たちはまさに“今が投資のベストタイミング”だと考えている」と話すのは、セコイア・キャピタル・インディアのパートナーであるモヒート・バトナガー。その言葉のとおり、セコイア・キャピタル、アクセル・パートナーズ、タイガー・グローバルなどの名立たるベンチャーキャピタル(VC)やPEファンドが拠点を設け、投資機会を掴もうと、ファンドサイズを年々大きくしている。それに加え、グーグル、アップル、フェイスブック、マイクロソフト、アマゾンなど、世界中の事業会社が今、最も注目するフロンティアー。それがインドだ。

インドで“革命”が起きている

「3年後には現在の2倍のユニコーン企業が出ているのは確実だ」

そう力強く語るのは、インドに拠点を構えるGHVアクセラレーター(GHVAccelerator)ファウンディングパートナーのヴィクラム・ウパデアーエ(VikramUpadhyaya)。ユニコーンのドゥルーバ(Druva)にエンジェル投資した経験を持つウパデアーエにとっても、昨今のインドは凄まじいスタートアップ熱に溢れているという。現在、インドのユニコーンは9社とされているが、非公式や予備軍を含めると、正確な状況は把握しきれない状況だ。というのも、1億ドル超えの投資案件が、日常
的に進行しているからである。「インドで“革命”が起きている」と現状を総括するのは、WiL共同創業者ゼネラルパートナーの松本真尚。インドの火付け役はソフトバンクによる大型投資であり、スタートアップ環境はここ2年で劇的に変わったという。今では“短期的なバブル”という悲観論が薄れ、“中長期的に正当化された熱狂”という観測が大勢を占めている。
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文=土橋克寿

この記事は 「Forbes JAPAN No.25 2016年8月号(2016/06/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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