平日の夜10時になっても賑わいは衰えない。日本で毎日のように報道される中国経済の危機とは別の世界である。
昨年設立された天津自由貿易試験区。千代田区の10倍強の広大な敷地に、真新しいオフィスビルが林立し、レジデンス棟も建設が急がれている。地下には日本企業が設計したショッピング街が伸びる。その一角の「日本生活館」は小ぎれいに日用品などを陳列しているが、韓国館やトルコ館に比べるといかにも小さく人影は疎らだ。
ここは上海や深センと並ぶ試験区として、とくに金融とソフト・サービス業に注力するという。マンハッタンをモデルに構想された町並みは清潔で、新幹線の駅からも近い。「世界でもとりわけ清国の町は汚れている。しかも天津は確実にその筆頭に挙げられる。町並みはぞっとするほど不潔」と書き残しているのは150年前にこの地を訪れたハインリヒ・シュリーマンである。現在の天津を彼はどう表現するだろうか。
試験区の主任は昼食会を催して「是非、日本企業に来ていただきたい。日本生活館は細やかすぎるし、あれだけでは寂しいです」と、熱弁を振るった。天津には昔から相当数の日本企業が進出しており、日本に対するムードは悪くない。経済が減速する中でも、天津などの沿海部は好調を維持している印象である。ここは冷静かつ前向きに考えるべきだな、と考え始めた刹那、ネットニュースが飛び込んで来た。「最悪の対中感情、日本人の8割超が中国に親しみを感じず」。内閣府が公表した世論調査を再掲し論評している記事だった。30年前の同じ調査では親中意識が8割近かったのにこの10年で真逆に転じた。
複雑な思いで向かった目的地は試験区から車で1時間ほどの南開大学である。北京大学、清華大学とともに学府北辰と尊称される同校は、周恩来ら要人を輩出していることでも知られている。