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そもそも、ブロックチェーンの未来を想像して、興奮している多くの人々は、アプリケーションの可能性にばかり着目している。しかし、下のレイヤーにあるアプリケーションを稼働させる技術的インフラやシステムのアーキテクチャについて検討することから、クリエイティブなアイデアが生まれることもある。

例えば、金融取引に関わるアプリケーションの根幹にある「会計システム(*6)」。実は、現在の会計システムは、700年前の複式簿記の手法に基づいており、13世紀フィレンツェ商人たちが使っていたのとまったく同じ方式のまま、抜本的な更新はなされていない。

この会計システムの問題は、あらゆるものを金銭価値に変換して、即座に簿記システムに入力しなくてはいけない点にある。取引や売買の契約は「誰が、いつ評価するか」によって、その価値は変化するもの。しかし、簿記への入力時に数字という金銭価値に変換すると、その数値によって契約の価値が、固定化される。つまり「契約が動かない、死んだ状態」になってしまうのだ。

ここで「明日雨が降ったら、1億円払う」という契約を例にとって考えてみよう。今の会計システムでは、雨が降る可能性が50%の場合、この契約を「5,000万円の価値」で評価して、簿記に入力することになる。しかし、この契約は、買い手がつかず、規制当局から価値がゼロと評価されることもあれば、雨が降ることで、100万ドルの評価額になることもある。つまり、今の会計システムでは、不確定な未来によって変わる契約の価値に対応できないのだ。

一方で、人工知能(AI)を使った高度な確率モデルによる新たな会計システムを考案したとしよう。そうすれば、契約を金銭価値に還元することなく、会計システムの中で「契約が生きているように扱うアプリケーション」を作ることも可能だろう。つまり、雨が降る未来にも、売れ残る未来にも、リアルタイムで対応して、契約の価値を評価できるわけだ。このアプリケーションの実現は、今よりも情報ロスが少ない会計情報に基づいた、会社や組織の運営に繋がるだろう。 

この新たな会計システムの考案は、ほんの一例だ。このように、ブロックチェーンは、アプリケーションを稼働させるアーキテクチャのレイヤーを検討することでも、面白いアイデアを生み出すことができる段階にある。

ブロックチェーンにとっての最初のキラーアプリケーションとして登場したビットコインは、現在、デジタル通貨の中で最も取引額が大きく広範なネットワークを持つまでに成長している。しかし、ビットコインは既に大規模に流通しているため、開発が慎重になった結果、使いにくさがなかなか解消されないという問題点もある。

そんな中、ビットコイン以外のデジタル通貨も台頭している。例えば、前述したイーサリアムは、ビットコインに次ぐ取引規模を持ち、プログラミングのしやすい言語が導入された、イノベーションの起きやすい仕様のデジタル通貨だ。

実際、イーサリアムのコミュニティ内では、The DAOのような実験的な取り組みも行われている。他には、リップル(*7)という、ビットコインとはまったく違う合意アルゴリズムを採用したデジタル通貨も登場するなど、デジタル通貨の世界にも多様性と競争が生まれはじめている。

では、デジタル通貨は今後どのような道を歩いていくのか、私は“2つの道筋”を想定している。

一つは、標準化に向かう道。様々なデジタル通貨で行われた実験の中から、面白いものが順次ビットコインに採用され、最終的にビットコインが標準的なデジタル通貨になるという可能性だ。この未来像は、AOLやニフティサーブのようなパソコン通信サービスが、初期のインターネットより利便性が高かったにもかかわらず、最終的にはインターネットだけがサービスとして生き残ったことを思い出せば、イメージしやすいだろう。

もう一つは、相互接続によって、複数のデジタル通貨が共存する道だ。VISA、Master、AMEXといった複数のクレジットカードが同一の決済システムで処理されているように、アプリケーションのレイヤーに多様なネットワークが同時に存在し、それぞれが用途別に使われるようになるだろう。

また「標準化か、相互接続による共存か」というデジタル通貨の行く先を考える以前に、その基盤技術であるブロックチェーンも「どのレイヤーが標準化し、どのレイヤーには多様性が残るのか」という点が、まだはっきりとしていない。インターネットの場合は、TCP/IPやHTMLのような標準化されているレイヤーとウェブアプリケーションのような多様性のあるレイヤーに、明確に分かれている。今のブロックチェーンはその段階にいたる過渡期にあるといえるだろう。

*6 会計システム現在利用されている会計システムは、700年前の複式簿記の手法に基づいており、13世紀フィレンツェ商人たちが使っていたものとまったく同じ形式である。

*7 リップル(Ripple)Ripple社が開発、運営する分散型台帳を利用した決済システム。借用証書を取引対象とするため、円、ドル、ユーロといった通貨からビットコインまで、送金が可能である。

文=Forbes JAPAN編集部

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