キャリア・教育

2016.07.22 18:50

スタンフォード大学ティナ・シーリグ教授が語る「情熱とスキルと市場の重なるところ」

スタンフォード大学 ティナ・シーリグ教授(Photograph by Jan Buus)

世界的ベストセラー『20歳のときに知っておきたかったこと』で知られるティナ・シーリグ教授。起業家育成のエキスパートは「使命」について何を語るのだろうか。

たとえば、強烈な嵐が過ぎ去ったとき、地上に生え続けている木と、そうでなく倒れてしまっている木があります。それはなぜでしょうか。多くの人は、簡単にその答えを導くことができるでしょう。

「地上に生え続けている木には、目に見えない地下に深い根をはっているから」

私は、人間もこのたとえと同様だと思っています。この“深い根”こそ、皆さんにとっての「ミッション(使命)」なのです。厳しい局面にたたされたとき、ギブアップせずに、乗り切るー。起業家精神を持ち、力強く生き続けるためには、日の目を見ないところにある強いミッションと哲学が必要になるのです。それは企業についても同じです。儲けだけを追求する営利至上主義の組織よりも、強烈なミッションをもった企業の方が成功する確率は高いと言えるでしょう。

スタンフォード大学で起業家精神とイノベーションを教える授業をもとに、それ以前に科学者、起業家、経営コンサルタント、教育者として経験してきたことをまとめた著書『20歳のときに知っておきたかったこと』『未来を発明するために いまできること』『夢をかなえる集中講義』を通して私が言いたかったことは、起業家精神の重要性でした。

快適な場所から離れ、失敗することをいとわず、不可能なことなどないと呑んでかかり、輝くためにあらゆるチャンスを活かすようにすれば、限りない可能性が広がるということ。そして人生では、誰もが試行錯誤しながら、スキルと情熱を思いも寄らない形で組み合わせる機会が数多くあるということ。最初から正しくなくても構いません。だからこそ、自分自身と世界を新鮮な目で見てほしい。そこからミッションを見つけてほしいということです。

『20歳のときに知っておきたかったこと』には、何人もの女性が出てきます。たとえば、開発途上国の起業家を支援するための「エンデバー」を立ち上げたリンダ・ロッテンバーグです。イェール大学ロー・スクールを卒業したばかりの彼女は「見捨てられた地域の経済開発を刺激する」という情熱からはじまり、がむしゃらにゴールを目指し、支援を取り付けるために、有名経営者のおっかけまでやったと言います。

エンデバーでは、優れたアイデアと実行力のある起業家を選抜し、資金だけでなく、地域有力者の紹介や同じ地域で困難な道を切り開いた先輩起業家の紹介といった必要な資源を与えています。そして彼ら彼女らの事業が軌道に乗れば、地域で雇用創出を行い、経済開発につながる。南米からはじまったエンデバーの活動は現在、世界中に広がり、何百といえる起業家に成功をもたらしています。

こうしたリンダの成功は「大きすぎて挑めない問題などない」と自分の行きたい場所に行くことの必要性を示唆しています。不可能に思えることに挑戦することは確かに大変です。その挑戦に、いちばん邪魔になるのは、周りから「できるわけがない」と決めてかかられてしまうこと。リンダが「あなたはどうかしている」と言われて怖気づいたとしたら、起こりえないことでしたから。

これはグーグル共同創業者、ラリー・ペイジも同じような指摘をしています。

「できないことなどない、と考えることで、決まりきった枠からはみ出よう」

できるだけ大きく考えること。小さな目標を決めるより、大きな目標を掲げた方が楽だと彼は言います。なぜなら、小さな目標の場合、達成する方法は限られてしまう。これに対して、大きな目標であれば、時間や労力をかけるし、達成する方法も多いからです。

隣町に行くのだと、通る道は決まってしまい、できるだけ早く着くことしか考えられないため、その道が通行止めになっていただけで、イライラしてしまうことでしょう。それが、日本からたとえばサンフランシスコのように違う国であれば、経路は何通りもあり、それなりの時間もお金もかかることを想定し、計画通りにいかなくても臨機応変に対応するでしょう。

ここから学べることは「目的地までの経路を決めないで、難しい問題に取り組もうとする気概や情熱があること」が成功につながり、社会を変えるということです。
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インタビュー=フォーブス ジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.26 2016年9月号(2016/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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