スタンフォード大学ティナ・シーリグ教授が語る「情熱とスキルと市場の重なるところ」

スタンフォード大学 ティナ・シーリグ教授(Photograph by Jan Buus)


私が責任者を務めるスタンフォード・テクノロジー・ベンチャーズ・プログラム (STVP)のキャンパスには、あるスローガンが書かれています。

「起業家はおよそ不可能と思える少ない資源で想像をはるかに超えることを成し遂げる」

ここで言いたいのは、会社を興すことだけが起業家のすべきことではないということ。何であれ、まずはじめることこそ、起業家精神です。そのためには、問題をチャンスと捉え、数少ない資源を活かしてアイデアを形にしていくことが大事です。

私はよく授業で、サーカス団のシルク・ドゥ・ソレイユの話をします。観客動員数の減少をはじめ、サーカス業界が低迷していた1980年代に誕生した同団体は「動物もピエロも登場しない」「洗練られた音楽」「物売りがおらずポップコーンもない」「チケットが高額」ーといった常識的なサーカスの特徴をことごとく覆し、爆発的な人気を博してきました。”前例のない非常識”が衰退産業という問題をチャンスに変えたのです。

これは何もサーカス業界の話だけではなく、他の業界や組織で応用できますし、スポーツや教育、結婚、ひいては人生にあてはめてもいい。まず、日常のなかで問題にぶつかったとき、「これはチャンスだ」と思うこと。常識とされていることを洗い出し、それを覆すこと。ルールを破ること。そういった常識にとらわれず、発想を変えることも重要だと思うのです。

従来のやり方を変えようとするのは大変です。スタンフォード大学の演習では、ルール破りを意外な方法で実践してもらいます。

『20歳のときに知っておきたかったこと』にも書いた「最悪の案を考える」という演習です。各チームには、課題解決策として、「最高の案と最悪の案」を考えてもらいます。そこで出た「南極でビキニを売る」「ゴキブリ寿司が売りのレストランを開く」など最悪と判断した案を他チームに渡した後、私は「最悪の案を練り直して、最高の案にしてください」と指示します。

他チームが最高の案にしたその案を最悪と判断していたもとのチームに戻す。すると、多くのチームメンバーは、全然だめではないことに気付きます。

たとえば、「南極でビキニを売る」という案が回ってきたチームは、「ビキニを着るか、さもなくば死か」というキャッチフレーズで、ダイエットしたい人たちを南極旅行に連れていく企画を考えました。「ゴキブリ寿司を売る」という案が回ってきたチームは、「ラ・クラカチャ」という英語のごきぶりをもじった名前のレストランを開き、好奇心おう盛な人たちを相手に、健康にいい食材をネタにした変わった寿司を提供するという案を思いつきました。

この演習からは、一見、馬鹿げていたり、愚かに思えるアイデアにも、少なくても一粒の実現可能性があること。アイデアには「よい」か「悪い」かしかないと思いがちですが、そうした思い込みを取り払うことが重要であること。そして、正しい心構えがあれば、どんなアイデアや状況にも価値があることが学べます。

ルールを絶対視しなくていいー。それがわかれば、力が湧いてくるでしょう。常識は何かを考え、見直そうとすれば、そして、自分に投影された自分自身や周りの期待を裏切ってもよいと思えれば、選択肢は限りなく広がります。

快適な場所から踏み出すことを恐れず、不可能なことはないとし、月並みな考えをひっくり返してください。経験を積めば積むほど、選択肢の幅は、自分が思っていたよりもはるかに広がります。たったひとつルールがあるとすれば、それは、あなた自身がエネルギーと想像力を解放してあげれば、どこまでもいけるということです。
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インタビュー=フォーブス ジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.26 2016年9月号(2016/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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