想定を超え活発だった経営者の議論(著:保坂 伸)バブル崩壊から20年のデフレ停滞を経て、企業だけではなく日本全体が競争力に自信を失い、萎縮している感があります。ここ数年、第二次安倍政権の経済政策「アベノミクス」によって景気は反転しましたが、GDP(国民総生産)は中国に抜かれ、差を広げられつつあり、停滞は漠然とした不安となって定着してしまっているように思えます。日本経済再生の本丸は金融政策ではなく、結局は「競争力強化」「イノベーション」にあるのです。
「イノベーション100委員会」の発足は、日本企業向けのメッセージであると同時に、日本経済を牽引する企業や事業をつくり出すことで、蔓延してしまった不安を払拭するという狙いもありました。
「大企業からイノベーションは興らない」というテーマは、あえて意図的にアンチテーゼを掲げることで、皆さんから反論が続々と出てくることを狙ったものです。富士フイルムのように社内からイノベーションを生み出した企業も少なくないので、反論がどんどん出てくることに期待しましたが、実際に議論は非常に活発なものでした。
議論を通じて痛感したのは、経営者たちの苦労です。LIXILグループの藤森社長が「社員全員に1日10回も20回も、365日、5〜6年言い続けないと変革は起きない」とおっしゃっているのは、率直な実感なのだと思います。
現在、共有できる技術についてはどんどん企業間の共有領域を拡大してオープンイノベーションを実現しないと、国際競争力の維持は難しい局面に差しかかっています。だからこそ、我々としては、日本企業にはもう少しベンチャーを活用してほしいと思っています。
米グーグルですら、毎年20社前後のM&A(合併・買収)を行っています。新たな主戦場となりつつある「Fintech」や「IoT(モノのインターネット)」においても、競争相手は世界中にいて、よりスピードある成長が求められています。優秀な技術者の多くはすでに各国企業に引き抜かれている状況では、社内で人材育成するのではなく、組織ごと買うことで人材を買う「アクハイヤー」などの大胆なアプローチも求められます。
「第4次産業革命」の荒波の中で、従来のような1社単独のイノベーションは非常に困難です。だからこそ、「イノベーション100委員会」で議論された提言が広まり、多くの経営者がイノベーションを興すことに積極的にコミットメントするように意識変革をしていただければと思っています。
保坂伸◎経済産業省大臣官房審議官(経済産業政策局担当)。1987年通商産業省(現経済産業省)入省。自動車課長、企業行動課長、秘書課長などを歴任し、2015年6月から現職。