ビジネス

2016.07.22

大企業のトップが激論、日本型イノベーションを興すために

「イノベーション100委員会」の経営者委員らによる座談会が開かれた

2015年、「イノベーション100委員会」の会合での議論は、大企業経営者たちの厳しい現状認識を映すものだった。委員会の議論から見えてきたのは、もはやイノベーションは「“将来の課題”から“会社存亡をかけた急務”へ」と役割を変えているということだ。

「今は平時ではなく異常時であり転換期。従来の経営戦略では通用しない。だからこそ経営戦略としてイノベーションが必要」(アサヒグループホールディングス社長・泉谷直木)

「自社だけでイノベーションを生み出そうという発想はもうない」(NTTデータ社長・岩本敏男)

「社員全員に1日10回も20回も、365日、5〜6年言い続けないと変革は起きない」(LIXILグループ社長・藤森義明)

「パッションが一番大切。現場のアイデアをシステマティックに吸い上げている」(ソニー社長・平井一夫)

だからこそ、同委員会は今年、議論の成果として、「イノベーションを阻む5つの課題」「イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針」を発表した(画像2,3枚目)。さらに、5つの行動指針を実行に移すためのチェック項目として「行動のための100の質問」を作成した。同委員会が定義した「イノベーション」は、以下の通りだ。

「研究開発活動にとどまらず、1. 社会・顧客の課題解決につながる革新的な手法(技術・アイデア)で新たな価値(製品・サービス)を創造し、2. 社会・顧客への普及・浸透を通じて、3. ビジネス上の対価(キャッシュ)を獲得する一連の活動を『イノベーション』と呼ぶ」

日本型イノベーションを興すために

「イノベーション100委員会」の座長を務める元ソニー車掌、安藤国威は日本の独自性について次のように話す。

「日本企業に関して、よく言われているのは、『イノベーションの果実を効率よく広めていく実行力はあっても、自ら興す構想力に欠ける』というもの。確かに、今の日本企業は既存製品を市場に行き渡らせることには優位性があるものの、市場を一変させる製品やプラットフォームを生み出す力が欠けているという見方が支配的なことは否めない。

ただ、この構想力については、日本特有の課題ではなく、世界共通の課題。世界中のイノベーション・ファームからの声も同様だ。そのため、ここで重要視すべきなのは、構想力がないことではなく、構想力は教育で培えるということ。だからこそ、10年後、20年後の未来に企業を支えるであろう人材を育てることをはじめ、将来のための投資を行い、積極的にコミットする経営者の役割が重要なのだ」

同時に安藤ら同委員会が重要視したのは評価基準である。そして、それが日本独自のイノベーションに結実するという。

「中長期的な試行錯誤を正当に評価する仕組みも必要となる。ただ、欧米流のKPI(重要業績評価指標)をそのまま輸入しても、日本ではうまくいかない。日本企業には、トップも現場も“同じ釜の飯を食べながら”という風土があり、それが独自のスタイルにつながる」(安藤)

その背景にあるのは、一橋大学名誉教授・野中郁次郎が提唱する「日本企業独自の価値」だ。野中曰く、「日本企業の底力は、経営者が社会的価値を考えて行動していることだ。社会的価値を創出することが、イノベーションへつながり、結果的に株主への貢献にもなる」。

安藤はそれが、日本の大企業の強みになると指摘する。

「世界で数多くのイノベーション・ファームやスタートアップ・インキュベーターと交流している中で、『日本企業の実行力の高さや社会的価値の創出を支えるモラル、それにこれまで培ってきた量産のノウハウは魅力的だ』という声をよく聞く。だからこそ、日本型イノベーションにはその力を最大限に生かすべきだ」

同委員会は、ベンチャー創造協議会の下に設立され、大企業17社の経営者が委員となり、経済産業省、一般社団法人Japan Innovation Network、WiLが事務局を務めている。今後も、定期的に経営者との話し合いを続けていく予定であり、「日本をイノベーション・ネーションにする」という志に賛同する経営者委員を増やし、賛同企業100社を目指して活動を拡大させていく。
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文 = Forbes JAPAN

この記事は 「Forbes JAPAN No.24 2016年7月号(2016/05/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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