「大連万達集団(ワンダ・グループ)」の王健林は2016年、香港の李嘉誠を抜いて、ついにアジアトップの富豪となり、中国本土出身者としては初めて、フォーブス「世界のビリオネア」ランキングのトップ20入りを果たした。
万達集団は、中国各地でショッピングモール「万達広場」の展開、ホテルや娯楽施設の建設、経営など、不動産業に留まらない幅広い事業を展開している。12年にはアメリカの映画館チェーン「AMCエンターテインメント」を買収(28億ドル、約3,000億円)、それを手始めに映画関連の企業買収に乗り出し、今年1月にはハリウッドの映画製作会社「レジェンダリー・エンターテインメント」を35億ドルで買収し、世界を驚かせた。
王はまた、「サッカーは生命の一部」と話すほどのサッカー好きで知られ、15年に出資したスペインの「アトレティコ・マドリード」は今年、チャンピオンズリーグ決勝に進出。万達集団が、FIFAの公式スポンサーとなることも決まった。
いまや押しも押されもせぬ世界的成功者となった王だが、生まれは決して裕福ではない。
軍で培った人脈と度胸
王健林は1954年、四川省綿陽市で生まれた。父親は中国人民解放軍の前身である「工農紅軍」に参加していた元兵士。日中戦争、国共内戦はもちろん延安への長征にも参加し、49年の建国以降は四川省の地方政府で公職に就き、チベット自治区の副主席まで務めた。母親も、四川省のある郷で女性初の郷長を務めた人物。18歳違いの夫とは、地区の党書記の紹介で結婚したという生粋の共産党員だ。
王が4歳のころ、父親は森林工業局に携わることになり、一家は都市部から森林に囲まれた大金県(現・金川県)に移り住んだ。折しも中国は数千万人の餓死者を出した大躍進政策の時代。しかし、自然の中で暮らしていた王は、幸いにも飢えることなく育った。