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2016.07.13

子どもの選択肢を広げたい! 「お迎えシスター」創業者 樋口亜希

Selan代表取締役 樋口亜希(写真=岡田晃奈)

トルコにマレーシア。韓国に台湾、アメリカ、カナダ……。3歳から18歳まで、樋口亜希(27)は毎日をさまざまな国籍の「お姉さん」と過ごした。週5日、21時までの約5時間。共働きの両親に代わり、一緒に夕飯を食べたり、言葉を教えてくれたり。

トルコ人のお姉さんは、ヨーグルトの煮込み料理を。中国人のお姉さんは、蛇鍋をつくってくれた。みな、両親が自宅近くの大学の寮に貼り出した求人を見てやってきた学生たちだ。

「料理に、文化や習慣。世界には、こんなにも異なる人々がいるのか、ということを学びました」。楽しい記憶として、いまも鮮明に思い出す。

2015年に樋口がスタートさせた「お迎えシスター」は、ほかでもない、この幼い頃の体験から生まれた。

バイリンガルの学生が週1、2回、日本の家庭に出向き、子供と1時間半なり2時間をともに過ごす。その場では、日本語での会話は一切なし。海外経験が3年以上、子供に教えたいという「情熱」と「誠意」があると見込んだ学生を採用する。「お迎えシスター」のプログラムには、樋口のこれまでの体験がぎゅっと詰め込まれている。

中国人の母と日本人の父のもとに生まれた樋口は、2歳で中国へ。帰国し、小学校高学年では家族でアメリカへ。再び帰国し、大学は9ヵ月の猛勉強の末、北京大学に進んだ。

米国では、小学校からプレゼンの場が与えられることに驚いた。自分は何が好きで、なぜ好きなのか。それらを明確にし、発表する。子供ながらに「これこそがアメリカ人の強さであり、人を惹きつける力」と悟った。中国では、10代の学生が壮大な夢を語る姿に感動すら覚えた。

対し、日本の就職活動は、個性を表現する場であるはずなのに、個性を潰す場になっていないか?

「大学3年生で初めて『自分とは何者か』を考えるのは、世界的に見ても不思議なことだと思うんです」

自分はどんな人間なのかを考える機会が幼少期から必要ではないか。そんな思いから「お迎えシスター」では、「Show and Tell」というアメリカの小学校で行われる、プレゼンのプログラムを設けている。

目指すところは、「日本で、もっと伸び伸びと生きられる子供を増やすこと」と樋口は言う。

レールに乗った人生を進む必要なんてない。子供たちの生き方の選択肢を増やしたい。さまざまな国籍、多様な考えを持つ人々が周りにいれば、より「自分」というものが確立する。それを、身をもって知っているから。

ひぐち・あき◎1989年生まれ。北京大学卒業後、リクルートに入社。退社後、2015年8月にSelanを設立。保育園や幼稚園、小学校に通う子供のお迎えと、語学レッスンをかけ合わせたサービス「お迎えシスター」を展開する。「亜希」の名は、中国人の母と日本人の父が「アジアの希望になるように」とつけてくれた。

文=古谷ゆう子

この記事は 「Forbes JAPAN No.24 2016年7月号(2016/05/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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