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2016.07.11

中高年スタートアップは成功率が高い? ステキな「人生二毛作」モデル

illustration by Kenji Oguro


秋田県の「あわびの小学校」。海洋研究の専門家だった菅原一美さんは定年後、のんびり過ごそうと考えていたのだが、震災を機にあわびの陸上養殖を実現すべく一念発起。廃校になった小学校を譲り受け、業者からもらった水槽を教室に並べ、ほぼ手作りで養殖場に改造した。あわびは非常に繊細な生き物なので、それこそ先生のように各教室を見回り、異常がないか確認する毎日は大変だがやりがいがあると言う。いま、この小学校から卒業したあわびたちが地元のレストランのメニューに載りはじめている。

高知県で「切り株」を売る和田修一さん。サラリーマンを辞め、Uターンで地元に戻った時、都会にないものがたくさんあることに気づく。そのひとつが切り株だった。山から汚れた切り株を集めてきては磨き上げ、ウェブサイトで販売。はっきりした四季がある日本では年輪もきれいにつく。それが海外で評判を呼び、シンガポールやドバイの富裕層やハイブランドから注文が入るように。皿や台、メダルなど使い方は様々だ。

映画にもなった徳島県の「葉っぱビジネス」。高齢者率が5割を超す高齢化と過疎化に悩む小さな町は、これといった産業もなくピンチを迎えていた。そこでお年寄りでもできる仕事はないかと模索した結果、つまもの(日本料理を彩る花や葉)に着目。軌道に乗ったいまは70代80代のおばあちゃんたちが自分で収穫した葉を全国に出荷、中には年収1,000万円を稼ぐ人も現れた。新しい仕事は町全体を明るくし、高齢者に元気と生きがいを与え、町営の老人ホームは廃止になった(入る人がいなくなった!)。

偶然かもしれないが、これらの事例からは共通して「自分の足で歩く大切さ」が見て取れる。伊能忠敬の場合はまんまではあるが、歩いて知識を得る、歩いてヒントを得る、歩いてきっかけを得る、歩いて金を得る。長年の知恵と経験に甘んじず、歩みをやめなかった者に新しい世界はひらけた(さらに歩くことは健康にもいい)。そしてもうひとつ、自分が興味を持ったものに対する愛と情熱。若い頃のような有名になりたい、大金持ちになりたい、モテたいといったある種の邪心が抜け、子供のように無邪気に対象物を追いかけるその姿勢も、成功の秘訣と言えるかもしれない。

余談だがスタートアップの定義には「世の中にイノベーションを起こす」というのがあるそうで、そういう意味ではこれらの事例は厳密にはスタートアップとは違うのかもしれない。けれど確実に言えることがひとつある。彼らは自分の人生にイノベーションを起こした。それは世の中を変えるのと同じくらいの意味を持っていると私は思う。

中島英太◎電通総研Bチーム&第1CRプランニング局所属。CMプランナーとしてこれまで数百本のCMを企画。現在はコミュニケーションで解決できることならなんでも、ローカルからグローバルまでいろいろ担当。個人的に音楽フェスを毎年上野で開催。

電通総研Bチーム◎電通総研内でひっそりと活動を続けていたクリエイティブシンクタンク。「好奇心ファースト」を合言葉に、社内外の特任リサーチャー25人がそれぞれの得意分野を1人1ジャンル常にリサーチ。各種プロジェクトを支援している。平均年齢32.8歳。

文=中島英太

この記事は 「Forbes JAPAN No.24 2016年7月号(2016/05/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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