ビジネス

2016.07.11

パナマ文書だけではわからない、「租税回避地」のカラクリと秘密

タックスヘイブンの代表格である英国領ケイマン諸島。人口約5万7,000人の島に9万以上の企業が登記されている。


課税逃れが目的なのか、あるいはファイナンス上の戦略や戦術を合法的に駆使したビジネスなのか。線引きが難しいものがあるため、決算書に少しでもミスがあると、国税当局から疑いの目で追及されることになる。

11年に発覚したオリンパスによる巨額粉飾決算事件など、タックスヘイブンを悪用したニュースにより、何かと「隠している」というイメージがつきまとう。「節税が目的ではなく、日本のように会社を設立する際に何度の書類の提出を求められたり、報告書を出す必要もなく、スピーディーにできる。それに、海外の合弁相手と事業パートナーを組むとき、効率的かつ非課税のタックスヘイブンでの設立を求められる」と、縷々説明したところで、認識の差は埋まらないだろう。

それに、グローバル経済に仕組みとして組み込まれているとはいえ、12年、スターバックスのイギリス法人が過去3年間法人税をほとんど納めていないことがわかったとき、不買運動が起こった。不公平感に火がつくと、怒りとなって一気に広がっていく。

同じく、個人のタックスヘイブンの利用についても、ある富裕層コンサルタントは、「節税目的のために労力を割いても、得られる効果に疑問がある」と言う。特にIT企業の経営者など若い富裕層は、次のように考えるという。

「税制は変わるし、監視も厳しくなっている。国税が目をつけると、何年も遡って徴税されることもある。訴訟になれば、時間はかかるし、私的なことがつまびらかに公になってしまう。勝訴しても、世間的には支持されないことが多い」

前述したSPCがカネを稼いでも、それを日本に移そうとすると、税務当局や警察の監視の網にかかってしまう。

では、海外で貯め込んだカネが使えないかというと、もちろん策がないわけではない。

SPC名義のカードを使う

海外でカネをつくり、それを自由に使いたいなら、移住することが一番である。例えば、タックスヘイブンに設立したSPCによる投資で儲けたとする。住民票をその地に移して、1年間に一定期間居住している実態をつくればいい。そうすれば、日本では所得税も課税されないし、海外で優雅にカネを使って生活ができる。よほど日本に住むことに執着がない限りは、タックス・ヘイブンを居城に海外暮らしを楽しめばよいのである。

著名なミュージシャンやスポーツ選手が日本を離れて海外で暮らす理由の一つに税金対策がある。一時帰国してコンサートを開いたりイベントに参加して報酬を得ても、日本で徴収される税金は源泉徴収分だけで済み、トータルの収入でみれば税金を安くできる。

ある富裕層向けコンサルタントは、「SPCの会社名義のクレジットカードを使って優雅に暮らす人がいる」と言う。

「旅行費用も買い物費用もすべてコーポレートカードで支払い、SPCに積み上がっている利益を経費で落とす。豪遊の思い出と購入したおみやげを日本に持ち込んでもなんら問題はないのです」


文=藤吉雅春、船木春仁

この記事は 「Forbes JAPAN No.24 2016年7月号(2016/05/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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