ビジネス

2016.07.09

全国の富裕層から注文殺到、「横浜家具」のマイスター

photographs by Akina Okada


「大切なのは、お客さまの深層心理を理解すること。相手が望むのは色なのか、素材なのか、デザインなのか。この仕事はお客さまと一緒になってつくっていく楽しみがある」という。打ち合わせに1年かかることもあるが、こうして世界にただ一つの家具が生まれるのだ。

内田の仕事は、「プライベート・コンシェルジュ」と呼ばれる海外の富裕層専門の旅行エージェントのそれに似ている。個人で年間10人程度の顧客を担当し、毎年のバカンスを手配する。顧客の家族構成や趣味、バカンスに対する考え方などを理解するため、顧客と友人のような親密な関係を築き、信頼を得ることが必要とされる。

二つの仕事に共通するのは、家族の思い出だ。ある顧客から古いテーブルの修理を頼まれたとき、新品同様に仕上げるのでなく、「この傷は残しておいて」と言われた。その傷にどんな思いが込められているのか知るよしもないが、内田は作業をしながら、ふと家族の顔を思い浮かべたという。

別の顧客は娘が嫁いで数年した後、ソファの修繕を頼んできた。娘の子ども時代の記憶を懐かしむ親の思いが伝わってきたという。

内田は「世代を超えて長く使われてきた家具は、先人のメッセージが詰まったタイムカプセル」だと言う。横浜の地で受け継がれた技術にさらなる磨きをかけ、顧客の想いを形にすべく、マイスターとしての日々を送っている。

文=中村正人

この記事は 「Forbes JAPAN No.24 2016年7月号(2016/05/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事