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世界38カ国、800万人が愛読する経済誌の日本版

photographs by Akina Okada

「テーブルの傷は残したまま修理してくれ」。富豪たちの注文は変わっている。家具を通して見える一家の歴史。今日も横浜の職人の元に、全国から依頼が舞い込む。

横浜は日本の洋家具発祥の地である。幕末の開港後、外国人居留地に持ち込まれた木製家具の修理を請け負ったのが、地元の木工職人だったのだ。彼らは釘を使わず、カンナで優美な曲線を仕上げる「横浜家具」を生み出し、文明開化の薫りを今に伝えている。

その「横浜家具」の唯一の継承者として知られるのが蓮華草元町工房の内田勝人である。彼は山手カトリック教会など、横浜を代表する数々の洋館の家具の製作や修理を手がけてきた。

いま、そんな内田の元に、全国各地の富裕層からオーダーメイド家具の注文が頻繁に届く。顧客には、横浜に代々住むロシア人や、先祖は出島から来たライフル商だったというオランダ人もいる。最近では、噂を聞きつけ海外から工房を訪ねてくる外国人も増えた。

注文の中身はさまざまだ。「横浜家具」は無垢材でしか表現できないラインやフォルムを手仕事で追求してきた。それだけに、一点物のテーブルやテレビ台、チェア、キャビネットなど、工賃も数十万円から数百万円にまでなる。新築の家に家具一式を揃えてほしいという注文もあるが、一品ごとにデザインを提案してつくるので、その場合、世間でいう一戸建て住宅分と変わらない場合もあるという。

顧客が求めるのは既製品ではなく「他にはないもの」だ。金額にはこだわらない。「高級家具店で最も高い製品を見つけて、これと同じかそれ以上出すから、私のためだけにつくって」と言われたこともある。

注文が届くと、打ち合わせのために顧客の家を訪ねる。すぐには家具の話に入らない。好みの音楽など、聞き役に徹する。顧客が何を望んでいるかを探るためだ。その家のパーティに招かれることもある。顧客の家族や友人と語らい、だんだん家族像が見えてくる。そのうち、どんな家具をどこにどう置きたいのかがわかり、初めてデザイン画を提案する。

文=中村正人

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