カネの概念を根本から変える「ブロックチェーン」の衝撃 専門家らが議論

デジタルガレージ共同創業者・MITメディアラボ所長の伊藤穰一 (photo: coutesy of Digital Garage)

「デジタル通貨」とその基盤技術である「ブロックチェーン」、さらに「人工知能」をテーマとしたカンファレンス、「ブロックチェーンと人工知能が変える未来」が7月5日、開催された。

2日間に渡るカンファレンスを主催したのはデジタルガレージ。同社の共同創業者でMITメディアラボ所長の伊藤穰一は冒頭、「ネットの登場が社会に与えたのと同様のインパクトが今後、デジタル通貨やブロックチェーン技術によってもたらされる」と述べた。

フォーブス ジャパン最新号で「お金そのものが、賢くなった未来」を提唱した伊藤は「インターネットの革新性が、メールというアプリケーションの便利さによって理解されたように、ブロックチェーンの技術的価値は、ビットコインの登場によって、広く知られるようになった」と述べた。

「ネットの場合はまず電子メールが普及し、その後ウェブという概念が広まり、様々なサービスが構築されていった。それと同様にブロックチェーンは技術的インフラで、その上にデジタル通貨の仕組みがある。高度に暗号化された台帳がチェーン状につながれ、ネットよりもセキュアな情報がやりとりできる。今後はデジタル通貨に限らず契約書や証券、資産譲渡など、あらゆる取引が低コストで処理可能になり、社会の構造を根本的に変えていく力になる」と力説した。

社会を根底から変えるブロックチェーン

とは言うものの、ブロックチェーンは未だ基本的な規格も統一されておらず、技術的インフラが未整備なのが現状。今回のカンファレンスでは、この分野の最前線を切り拓く専門家らが、その課題と可能性について論じた。

「ブロックチェーンの可能性」と題したキーノートを行なったのがブロックストリーム社の共同創業者、アダム・バック。今年2月、DGインキュベーション等から5,500万ドル(約56億円)の資金調達を行なった同社は、ブロックチェーンと連動する「サイドチェーン」プラットフォームを発表した。

バックは「従来の銀行とは違い、機械化アルゴリズムがリアルタイムで会計監査を行なう、ブロックチェーンのセキュリティの高さや低コスト性」を強調。「プログラミング可能なマネー」や手数料を限りなくゼロに近づける「スマートコントラクト」の仕組みに関して説明した。

続いて登壇したライトニングネットワーク社創業者のタデウス・ドライジャは、「1円以下の超少額決済が可能になる“マイクロペイメント”」。さらに、それが実現する「コンテンツのページ単位や時間ごとの課金が可能になる未来」といった利用モデルを明らかにした。

続いて登壇したのがBlockstack Labs社CEOのライアン・シア。マイクロソフトと共同で、IDを持たない人々に身分証明を付与する取り組みを進める同社は「アイデンティティを分散化プラットフォームで管理し、デジタル身分証明の分野に革新をもたらす」と述べた。この技術を用い、今後は暗号通貨を用いた投資信託や集団署名、特定の企業に依存することなくコンテンツを共有できるSNS等を構築可能にするという。

クリアすべき高いハードル

ブロックチェーン技術はウーバーやエアビーアンドビーのような、かつては想像もしなかった革新的サービスの源泉になりそうなテクノロジーに思える。しかし、広範囲に利用されるまでのハードルは高い。

冒頭の伊藤の発言に戻すと、「ブロックチェーン分野には、既に世界の投資家から、1000億円以上の資金が注がれている」とのこと。しかし、「ネットのように“とりあえずやってみて駄目だったらまたやり直せばいい”というスタンスは通用しない」。何故なら、ブロックチェーンが扱うのは、通貨や証券、不動産など、格段に高いセキュリティが要求される分野ばかりだからだ。

「デジタル通貨とブロックチェーンの発展には、国家やステークホルダーを超えて、規格や政府との連携をコーディネートする存在が必要だ」。そのような思いから、MITメディアラボ内に中立的ポジションをとる「デジタル通貨イニシアティブ」も設立された。

巨大な可能性を秘めたブロックチェーン技術。その未来は今、信頼性や安定性、透明性といった多角的な視点から、慎重な吟味を重ねつつ切り拓かれようとしている。

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編集=上田裕資

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