故郷、熊本の支援を模索しながら感じたこと[小山薫堂の妄想浪費 Vol.12]

ガウディのサグラダ・ファミリアばりに長い時間をかけて修復されていく、復興のシンボル「熊本城」(illustration by Yusuke Saito)

放送作家・脚本家の小山薫堂が「有意義なお金の使い方」を妄想する連載第12回。筆者の故郷、熊本県で地震が起きた。それから1カ月、必要とされる支援を模索しながら感じたこととは?

4月14日に熊本で地震が起きた。その日はそんなに大事になるとは予想していなかったのだが、16日の本震で状況は一変してしまった。「これはただ事ではない。自分にできる支援はなんだろうか」と考えたときに、あらためて思い返したことがある。

東日本大震災が起きてまもなく、僕は渡辺謙さんと写真家のハービー・山口さんとともに、女川まで支援物資を持っていった。ハービーさんは避難所に着くなり、そこにいたおばあちゃんに写真を撮らせてもらえないかと声をかけた。僕は正直こんな悲しい顔をした人を撮るのは申し訳ないんじゃないかと思っていたし、おばあちゃんも最初は「笑えないからやめて」という反応だった。

でもハービーさんがおばあちゃんの肩を揉みながら10分、20分と話を聞くうち、おばあちゃんの心がほどけていったのがわかった。そして「笑った顔を見たいなあ」とあらためてカメラを向けると、その瞬間、驚くほど素敵な笑顔をされたのである。「うわあ、いい写真撮れたよ!」、ハービーさんがそう言うと、おばあちゃんは最初に見たときとは別人みたいに、すごく元気になっていた。

そのとき思った。震災以降ずっと人に助けられてばかりだったおばあちゃんにとって、自分が助けられるだけの存在ではなく、自分の存在も他の人の助けや幸せになっていると感じられたのではないだろうか。なんといっても人は誰かに頼られたり、誰かのためになっていると感じられたりするときに、すごく力が湧いてくるものだから。

それで僕は支援の第1弾として、Twitterでハッシュタグ「#くまモンあのね」をスタートさせた。これは、熊本在住の皆さんに、被災地で見たり、聞いたり、感じた(ささやかでもいいので前向きな)心を和ますような意見をくまモンに報告するようにつぶやいてもらう、という企画だ。

たとえば「ギャン目立つトラックで来てくれはった。嬉しかばい」「当たり前だと思っていたことがすごいことだったって気づいたよ」「ずっと会えなかった同級生に避難所で会えたよ」というようなことを被災地の人がつぶやく。それを被災地の外にいる人が読んで、感動したり元気になったりする。被災地の人たちは自分たちも外にいる人の役に立っているんだ、と感じることができる。

先日、熊本日日新聞社発行のグラフ誌に寄稿を頼まれ、僕はこのように書いた。「皆さん、ご存知ですか?(SNSから窺い知ることのできる)熊本の人たちの優しさや謙虚さや強さに、多くの人たちが感動し、勇気づけられていることを。今回、熊本県民は被災者となり、支援される立場となりましたが、逆に熊本県民が日本じゅうの人々を励ましてもいるのです」と。

“心の絆”が紡ぎ出す幸せな連鎖が、いまこの瞬間も続いていることが、本当に嬉しい。
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イラストレーション=サイトウユウスケ

この記事は 「Forbes JAPAN No.24 2016年7月号(2016/05/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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