英国が自ら招いた傷が現実として定着し始め、世界経済はまだ大混乱を回避している。こうしたなかで、新興経済国のリーダーたちにはそれぞれ、一人でひそかに笑う理由がある。ちょうど先進各国が、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国)各国の政府のうち、一番先に崩壊するのはどこかと見守っていた時のように──。英国は崖から飛び降りた。今、世界の中でより不安定にみえるのはどの国だろうか。
金融市場を動かす“物語”
市場は“物語”によって変化する傾向がある。金融についてはあらゆる分析が行われているが、それでも私たち人間は、物語が好きだ。そして、世界的な資本の動きについて私たちが20年近くにわたって注目し続けてきた話がある。
物語のタイトルは、「“家”を探す資金」としておく。欧米の古い経済は、世紀の変わり目には推進力を失っていた。当時、成長がみられたのは発展途上国。なかでも規模が大きかったのは、BRICSの各国だ。
2007~08年の世界金融危機を経て、物語の筋書きはまた一歩先へ進んだ。いち早く回復したとみられた中国の姿に、「中国の世紀」という言葉がよく聞かれるようになった。そして、原油価格の上昇に伴い、ロシアとブラジルも成長を見せ始めた。だが、こうした筋書きは現在までに、すでに消えてなくなっている。米国経済は着実に回復し、一方のBRICSは、いくつもの課題に直面している。
中国の債務バブル懸念、ブラジルとロシアを襲う原油価格の下落やその他の問題、南アフリカで続く政治的混乱、インドのかたくなな外資規制──。物語の筋書きは、大きく欧米寄りに方向を変えた。欧米各国では国境を超えた投資が急増。特に英国、そしてロンドンへの投資は大きく増加した。