ブレグジットが押した「一時停止ボタン」
ブレグジット(英のEU離脱)は少なくとも、この物語の「一時停止ボタン」を押した。そして、その直接的な利益を得るのは米国だろう。ニューヨークは離脱決定の前から既に、“新たなロンドン”と呼ばれていた。
ロンドンの金融街シティーの仕事がアイルランドのダブリンやドイツのフランクフルトに移されても、外国からの投資はこれらの都市ではなく、米国に向けられるだろう。ロンドンに求められてきた安全性と安定が期待できるのは、やはり米国なのだ。そしてこの状況は、「英国をなくしたEUはどうなるのか」という疑問をさらに強めていくことになる。
ただし、大統領選を控え、「トレグジット(Trexit)」が唱えられ始めた米国は、この好機をみすみす逃す可能性に満ちている。(メキシコとの国境の)壁の建設やイスラム教徒の移民排斥、貿易協定の破棄を訴える候補(ドナルド・トランプ)を選ぼうと訴える声が高まっているのだ。
この物語には終わりがない。ブラジルはジカ熱と戦い、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は積極的な軍事行動で投資家たちを怖がらせている。そして、中国が世界銀行に対抗するものとして新設したアジアインフラ投資銀行(AIIB)は、初となる融資を承認したばかりだ。こうした状況の中で、物語の筋書きは新たな方向へと向かい始めた。
ブレグジットはさまざまなものを意味する。その影響の大きさが明確になるのは、何年も先のことだろう。だが、この物語にとって、そして物語に基づいて行動する市場参加者たちが受ける影響にとって、ブレグジットは転換点となったのかもしれない。物語は再びBRICSに、少なくともその一部の国に、注目を向ける可能性がある。