テクノロジー

2016.06.29 09:00

シリコンバレー「スタートアップの姉」、アイデンティティという武器で国境も常識も超えて行け

シリコンバレーで女性起業家のためのアクセラレーター“Women’sStartupLab”を運営する堀江愛利 (写真=東海林美紀)

シリコンバレーで女性起業家のためのアクセラレーター“Women’sStartupLab”を運営する堀江愛利 (写真=東海林美紀)

IT起業の聖地シリコンバレーで、女性起業家のためのアクセラレーター(短期養成所)を運営する日本人女性がいる。多くの女性起業家を輩出し、現地メディアに「スタートアップの姉」と評される堀江愛利に聞く「起業家精神」とは。
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Evernote創業者のフィル・リービン、日本オラクル初代代表で投資家、サンブリッジグループのアレン・マイナーCEO、そしてシリコンバレーで多くのスタートアップを上場へ導き、直近ではシニア・アドバイザーとしてウェアラブル端末Fitbitの「400億円上場」に大きく貢献した熊谷芳太郎。錚々たるメンバーが若き日本のアントレプレナーのアドバイザーになってくれる―。

昨年の夏、シリコンバレーで実施された“JAPANX”というアクセラレータープログラムだ。これを、縁の下で支えた力強い日本人女性がいる。現地で女性起業家のためのアクセラレーター“Women’sStartupLab”(以下WSL)を運営する堀江愛利だ。

「あなたは今、本当に人生で自分のやりたいことを追い求めているのか。自分にしかできないことをしているのか―」
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2015年4月、新経済連盟主催のコンファレンスの舞台上から、堀江は問いかけた。男性であれ、女性であれ、自身の「アイデンティティ」を持った時、それが起業家としてのすべての始まりである。その地点が創造性の発端であり、ビジョンを共有する仲間が集う場所である、と。

すべては“当たり前”への問いかけから

WSLは、2013年に本格的に始動した。メンロパークのオフィスには、シリコンバレーの女性起業家たちが数多く集う。堀江の携帯電話は、彼女たちのために24時間オープン。まさに「駆け込み寺」だ。

堀江は1972年広島県生まれ。内気な性格の小学生時代、母親は彼女にピンクのランドセルを買い与えた。他のクラスメイトは皆「赤い」ランドセル。からかわれて、よく泣いて帰った。

「皆が言うことは真実なのか。他人が言うことを信じるな。自分の信じることを信じなさい」

母は「アイデンティティを持て」と教えたかったのではないか、と堀江は振り返る。

高校の交換留学プログラムで初渡米。考えて、考えて、考え抜いた上で行動する、という日本の文化に対して、アメリカでは、考え行動する、考え行動する、の繰り返しだった。一旦帰国するものの、母にもう一度渡米したいと懇願する。アメリカの大学を卒業後IBMに入社。その後いくつかのスタートアップ企業に勤め、02年、長男の出産をきっかけに自宅でビジネスを始める。

転機は、その30代に訪れた。2人の子育てに忙殺される中、同居の母が倒れ、看病が重なった。女性ならば誰もが通る道を短期間で経験し、女性にとって“やって当たり前”と思われていることがいかに大変かを痛感した。

そして、母の死を機に「当たり前」への問いかけを一度もしてこなかった自らの10年を振り返った。他にも方法はあったのではないか。残された人生は人の役に立ちたい、世界を変える仕事をしたい。そう思った。

11年、バイリンガルの子供たちに遊びを通して英語を教えるITプラットホーム「Mochigo」を立ち上げ、さらに13年にはWSLを創業。冒頭に挙げたメンバーの他にも、スカイプの投資で有名なティム・ドレイパーやガレージ・テクノロジー・ベンチャーズ設立者のガイ・カワサキなど、シリコンバレーの著名VCや創業者をサポーターとして巻き込み、女性たちの起業を側面からバックアップしている。

「私はスタートアップとして有名なわけではありませんので、ゼロからのスタートです。サポーターへのアプローチで重要なのは、皆で何ができるか、何を目標としているのかを伝えること、そして相手の動機を見極めることです」

誰もが憧れる大物も堀江ならではのウイットの利いたジョークで、相手にとって負担にならない心地いい距離を保ちながら巻き込んでいく。
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文=岩坪文子

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