大人には理解できない画像アプリの黒船「ピクスアート」、日本展開加速

ウィルソン・クリーゲル(左)、ホバナス・アボヤン(右)/ photographs by Ramin Rahimian


2011年にアルメニアの連続起業家、ホバナス・アボヤンが立ち上げたピクスアートは、近年のアプリビジネスのグローバル化を象徴する存在だ。旧ソ連時代からコンピュータ科学の先進地だったアルメニアには近年、マイクロソフトも開発拠点を設け、IT業界では「中東・コーカサス地方のシリコンバレー」と呼ばれるが、一般的な知名度はまだ低い。

しかし、辺境とも言えるこの国が生んだアプリは瞬く間に世界でユーザーを獲得し、14年初頭には1億ダウンロードを突破。アボヤンは事業拡大を目論み、米国でベンチャー投資会社との打ち合わせを重ねた。クリーゲルは関係者からアボヤンを紹介され、たちまち意気投合したという。

「当時のピクスアートは完全自己資本の会社で、口コミだけでユーザーを獲得し、黒字化を達成していました。何より魅力的に映ったのは、米国以外のユーザーが8割近くもいるグローバルなアプリという点でした」

14年夏、クリーゲルはピクスアートのCBOに就任。インスタグラムの成長を支えたセコイア・キャピタルから1,500万ドルを調達。翌年夏にはインサイト・ベンチャー・パートナーズからさらに1,000万ドルを調達した。そして、今年4月には日本と中国でのオペレーション強化を念頭にDCMベンチャーズとSiguler Guff & Companyから2,000万ドル(約21億円)を調達し、さらなる拡大を目指す。

「画像アプリの利点は言語を超えた広がりが期待できること。私はデジタル業界に十数年身を置き、6つのスタートアップ企業に関わりましたが、その3つは米国外をベースとした企業でした。ピクスアートの世界展開に携わることは自分にぴったりのミッションだと思いました」

その後、フェイスブックやツイッターなどから優秀な人材を相次いで抜擢した。

「開発拠点はアルメニアに置きつつ、サンフランシスコを本拠にマーケティングを促進していく。優れたプロダクトの成長を一気に加速させるのは、シリコンバレーならではのダイナミズムです」

画像アプリには多様なものがあるが、ピクスアートの最大の利点は「フォトショップ並みの高度な画像編集」がアプリで完結する点。日本では昨年、「インスタインマイハンド」というハッシュタグをつけた画像がブームになった。画像を透明に加工し、インスタグラムを手の中に収めているように見える写真が爆発的にシェアされた。

「インスタグラムが画像アプリの第1世代だとするなら、ピクスアートは第2世代。画像や動画を自由に加工し、誰もがクリエイターになれます。ユーザー同士のコラボ機能もあり、仲間と一緒に創った作品は爆発的に拡散するパワーを秘めています」

米国ではディズニーやアメリカンエキスプレス、ソニー・ミュージックとも提携。課金コンテンツの販売にも乗り出した。
次ページ > 大人たちの理解を超えた「自由度」

文=上田裕資

この記事は 「Forbes JAPAN No.23 2016年6月号(2016/04/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事