ー前澤さんにとって、アートを買うことはどのような意味がありますか。
前澤:単純に好きなんです。僕は12年に現代芸術振興財団を設立して、現在はその財団の会長を務めているんですが、アートはすべて個人で購入しています。会社のお金でも財団のお金でもありません。いまは故郷の千葉市内に私設美術館の設立を予定しているのですが、大きな建物の美術館というよりは、街とアートが融合したようなものを考えている。アートはライフスタイルに心の豊かさを与える、という実感が僕にはあるので、街に展開していったらみんなもハッピーになるんじゃないかと思って。パブリックアートというのですが、例えばニューヨークのマンハッタン6番街にロバート・インディアナの『LOVE』という作品がドーンと置いてあるんです。あれと同じ作品を8年ほど前に落札して、千葉市長と相談し、西千葉の空き地に寄贈させてもらいました。子どもがよじ登ったりして、楽しそうですよ。
ーそれは市長も喜ばれたのでは?
前澤:市長は喜んでくれたのですが、街に置く場合は自治会の皆さんに理解してもらわないといけなくて、僕の思いをわかっていただくまで少し大変でした。
ーなるほど。財団ではアートに関わる学生の支援もされていますよね。
前澤:財団を国に申請する際にはどのような活動をするのか事前に届け出なければなりません。学生を表彰して支援したいというのは設立時から考えていました。
石坂:巨匠の作品を買い、若い才能も応援するということですよね。日本の賞というのはどちらかというと功成り名を遂げた巨匠に差し上げる賞が多いですが、「巨匠がもらう1,000万円」と「明日の制作費にも事欠く学生の100万円」というのはまったく意味合いが違う。若い人にとっては非常に意味のある賞だと思います。
ー素晴らしいですね。では、アートを購入し続けてきて、海外と日本の反応の違いを実感される時はありますか。
前澤:海外では誰もが「おめでとう」と言ってくれます。日本では残念ですが「無駄遣いじゃない?」とか「誰のお金で買ったの?」というようなことを言ってくる人が多いですね。
石坂:今回のバスキアの件は、日本でも解説抜きで、新聞で一度小さく取り上げられましたが、海外ではBBC、ウォール・ストリート・ジャーナル、NYタイムズなどが「Maezawa? Who?」と何回も取り上げ、大騒ぎでした。それも購入した一連の作品をリストアップし、「日本人ってルノワール以外も買うんだ。クールだね」という好意的な反応ばかりです。これをきっかけに後に続く人が、また日本にも現れるといいですね。
前澤:確かに社会のムードを変えたいですね。正直「先頭切ってできる人がいないなら、僕がやらなきゃ」という、ちょっとした責任感はあります。
ーぜひ先陣切っていってほしいです。最後に、私設美術館のコンセプトなど、何か思い浮かべていることがあれば。
前澤:できれば1泊ぐらいできるといいなと(笑)。僕の寝室にはバスキアとリキテンスタインが飾ってあるのですが、絵の前でご飯を食べたりお酒を飲んだり眠ったりって、美術館ではなかなかできない。アートとともに生活する醍醐味を味わえる施設になったら本望ですね。
いしざか・やすあき◎1956年、東京都生まれ。AKI ISHIZAKA代表取締役社長。東京藝術大学非常勤講師。幼少期に日、米、英、独で育つ。総合商社勤務後、87〜2005年まで二十世紀美術の画廊を経営。05〜14年、サザビーズジャパン代表取締役社長。現在は美術館、個人、企業へ美術品収集、売却のアドバイスを行う。著書に『巨大アートビジネスの裏側ー誰がムンクの「叫び」を96億円で落札したのか』(文春新書)他。
まえざわ・ゆうさく◎1975年、千葉県生まれ。ファッション通販サイトZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイの創業者兼代表取締役。95年、輸入レコード・CDのカタログ通販ビジネス開始。98年、有限会社スタート・トゥデイを設立し、2000年に現会社に。07年、マザーズ上場。12年、東証一部上場。同年より(公財)現代美術振興財団を設立、会長を務める。