タクシー料金改定申請を「ウーバー」から考える

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ニューヨークでは、タクシーと、ハイヤー(リムジン)と、ウーバーが混在している。タクシーの仕組みは、東京とニューヨークはほぼ同じ。一方、ハイヤー会社は事前予約制だが、車の大きさ、車種によって料金が異なる。しかも、予約が多く入っている時間帯は安い料金の車種は出払っていて、高い料金の車にならざるを得ないこともある。

そしてウーバーは、スマートフォンにアプリをダウンロードして、事前に口座をつくり、クレジットカード決済することが基本である。スマホで配車依頼、料金決済をする。乗車前に料金が決まり、現金のやりとりはない。ウーバーの運転手はハイヤー運転手登録をしている人もいれば、素人もいる。基本的には、「白タク」の可能性もある。

ウーバーでは、乗車前に料金が決まっているので、回り道をして料金をボラれるのではないか、という心配もしなくて済む。一方で、ウーバーの提示料金は、風雨が強くて、タクシーがなかなかつかまらないようなときには「急上昇する仕組み(surge pricing)」がある。

ウーバーのように混雑状態になれば料金が上がる、混雑していなければ料金が下がる、というのは、市場メカニズムから考えると当然である。市場メカニズムが需給を調節すべきという多くの経済学者から考えると、違和感がない。ウーバーのようなシステムこそが、望ましい。

ちなみに、「白タク」では、運転技術の未熟な運転手にあたったらどうする、という心配もあるかもしれない。ウーバーでは乗車後に運転手を評価するシステムがあるので、蓄積された「評判」を次の顧客が確認することができる。ニューヨークではウーバーへの乗客の支持が広がっている。

ウーバーは、需要と供給をマッチさせるプラットフォームを提供しているだけで、乗客の輸送業をしているわけではない、と主張している。ただ、いくつかの国やアメリカの国内でも、これは乗客輸送業ではないか、という圧力は増している。

東京でも、タクシー料金を状況に応じて、もう少し上昇下落させることは可能だ。晴れの日などで、空車がたくさん流しているようなときには特別割引、雨の日や特別イベントがあるような日には加算など、需給を一致させるような仕組みを考えることがウーバーへの一番の対抗策になるはずだ。

伊藤隆敏◎コロンビア大学教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D取得)。1991年一橋大学教授、2002年〜14年東京大学教授。近著に『日本財政「最後の選択」』(日本経済新聞出版社刊)。

文 = 伊藤隆敏

この記事は 「Forbes JAPAN No.23 2016年6月号(2016/04/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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