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2016.06.11

入院生活を楽しむ方法[小山薫堂の妄想浪費vol.11]

お軸に季節の花、美味しいお抹茶とお菓子。「惚節庵」を訪れた者は、翌日も来てしまいたくなるという……。 (illustration by Yusuke Saito)

放送作家・脚本家の小山薫堂が「有意義なお金の使い方」を妄想する連載第11回右足を骨折して長期入院を経験した筆者が、お見舞客をおもてなしするために考えたこととは?

2月末、右足を骨折した。その日、僕は奈良にいた。縁あって京都の老舗割烹「下鴨茶寮」のオーナーになった話は以前書いたけれど、その銀座店オープンに向け、お抹茶茶碗と酒器を購入するために、陶芸家・辻村史朗さんの工房を訪れていたのである。

辻村さんは、一般的には細川護熙元総理の師匠として広く知られるようになったが、その実50年近く、師を持たずにまったくの独学で土と格闘して作品をつくり続けてきた人だ。その評価は日本国内にとどまらず、アメリカのメトロポリタン、ボストン、ブルックリンなどの名だたる美術館に作品が所蔵されている。

さて、その辻村さんに「好きなの選んでいいですよ」とありがたい言葉をいただいた僕は、たったひとつを選び抜こうと、釜にあったお茶碗を10個ほど選んで盆に並べ、外へと運び出した。

ところが、枯葉の下に丸太が埋まっていて、それに足をとられたのである。盆にはひとつ50万円は下らないお茶碗が10個! とっさに盆を両肘で抱えこんだ僕は、そのまま正座のような姿勢で転んでしまった。見ると、右足が変な角度で外に向いている。お茶碗はひとつも割れなかったけれど、骨が折れていた(笑)。こうして1カ月にわたる京大病院での入院生活が始まった。

病室で考えたこと、学んだこと

人が病に伏したときほど、「本当に必要なものってなんだろう?」と考える機会はないかもしれない。

入院で最初に辛かったのが、ベッドの寝心地が悪く、腰が痛くてよく眠れないことだった。それで腰痛に効くベッドマットを探そうとネットで検索すると、トップに出てきたのが高反発マットの「エアウィーヴ」。幸運というべきか、高岡本州(もとくに)社長とは面識があったので、「エアウィーヴってこういう状態のときにも効きますか?」とメールをしたら、なんと5時間後に社員の方が病室まで持参してくれた。

早速使用してみると、浅田真央ちゃんや北島康介さんが海外遠征にこれを持参する気持ちが、すごくよくわかった。それまでは夜中に何度も目が覚めて、「早く朝にならないかな」と思っていたけれど、エアウィーヴをベッドの上に敷いて寝はじめたときから、「あれ?もう朝になったんだ」と思うくらい、違いが歴然だったのだ。

そこで考えたのが、高性能ベッドマットのレンタルシステムである。たとえばエアウィーヴは約10万円と高く、個人で購入するのは大変だから、入院した方のために支給できるシステムがあったらいいと思う。僕なら絶対に利用する。

システムのないいまは、お見舞いの一品としてはどうだろう。会社の上司やお得意様が入院したときに、千疋屋のメロンも喜ばれると思うけれど、10人が1万円ずつ出し合って高性能ベッドマットを持って行ったら、喜ばれること間違いなしである。

お見舞いといえば、今回は200人ほどの皆さんからお見舞いをいただいて、本当にありがたい思いをした。あらためてこの場を借りてお礼申し上げます。本当にありがとうございました。

何事も数が集まれば発見がつきものだが、200ものお見舞いにはいろいろと考えさせられることがあった。
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イラストレーション=サイトウユウスケ

この記事は 「Forbes JAPAN No.23 2016年6月号(2016/04/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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