中国減速とトランプ米国、どちらが日本にリスクか?

Ronnie Chua / shutter stock


古い友人同士だが、いささか話がぎくしゃくしてきた。私の出番である。「Change the subjectだ。僕は米国リスクがとても気になる。トランプ旋風には正直、どうなっちゃったのか、って感じるんだが」。

マークが戴さんのワイングラスを充たしながら呻くように言う。「日本にとっては米国リスクのほうが大きいかもしれない。そのリスクは中国にも、アジア全体にも降りかかってくるだろう」。

彼は、トランプ旋風は多重構造だと指摘する。表層的にはかつての橋下徹ブームに似ている。本音を下品なまでに痛快な表現で代弁してくれる姿に、多くの米国人が拍手喝采を送る。その底流には、湾岸戦争以来の米国の外交戦略の誤りとそれゆえに対外交渉での必要以上のコミットメントに疲れ、倦(う)んだマインドが潜んでいる。レイシズムや女性蔑視とも取れる発言も、マイノリティの台頭に危機感を募らせる白人層からの岩盤のような支持を自覚したものだ、という。

「特に用心しなければならないのは、孤立主義だ。米国は他国を頼らずやっていける。これ以上国内で貧困層が増え、善意の外交が裏目に出て、テロの脅威に怯えるのは馬鹿げている。誰が大統領になろうと同じだと考えておいたほうがいいね」。21世紀のモンロー主義か。日米同盟はどうなるのか。

「現象面ではあまり変わるまい。けど、経済、外交、まして軍事では、まず日本が自国でやるべきことをやってからだ、という精神になる。助力はするが身代わりにはならないよ」。アジアの問題はアジアで解決しろ、太平洋の西半分から中東までは、米国の核心的利益に触れない限り過度の介入はしないという。日中を含むアジア全体の緊張度は高まるだろうが、米国にとってはnone of my businessなのだろう。

ほんのり頬を染めた戴さんは機嫌を直したようだ。「一帯一路は筋のよい構想よ。日本も早くアジアインフラ投資銀行(AIIB)に加盟すべきだわ。中国の夢は日本の夢にもつながるはずよ」。

YUSUKEKAWAMURA
川村雄介◎1953年、神奈川県生まれ。大和証券入社、シンジケート部長などを経て長崎大学経済学部教授に。現職は大和総研副理事長。クールジャパン機構社外取締役を兼務。政府審議会委員も多数兼任。『最新証券市場』など著書多数。

文=Forbes JAPAN編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.23 2016年6月号(2016/04/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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